月が昇る頃に



 港への帰り道を、薄明かりが照らす。仄かな光に、二つの影。そして足早な音
に紛れ、ひっきりなしの声。
 「だからじっとしとけつってんのに、何で船から降りんだよ!?テメェはアホ
か!?アホなんだな!!言うまでもなくアホだ!!」
 「だから仕方なくつってんだろ!!アホアホ言うな!煩ェ!!」
 「仕方なくって何だよ!?陸に降りたら即迷子だっつー習性を、いい加減理解
しやがれ!このアホ!マリモヘッド!!」
 「アホ言うなつってんだろ!マリモもだ!!」
 「うっせェ!怒鳴るな!!迷って俺に保護されたヤツが偉そうに!」
 「テメェも怒鳴ってんだろが!?保護って言うな!!」
 「俺が保護しなきゃテメェ、エンドレスで町ン中徘徊してたろが!!自覚しろ
つってんだよ!この万年放浪サボテン!!!」
 「放浪サボテン言うな!!変な呼び名ばっかつけやがって!!!」
 彼らは怒鳴り続けた勢いのまま、向かって額をつき合わす。流石に長い口論で
息継ぎの為の沈黙が訪れたが、それでも睨み合いは止まなかった。
 この流れまでくると次は力技に移るパターンで、そこを想定して剣士が腰元へ
手を下ろし掛ける。



 ところがコックは怒り顔を不意に引っ込めて、戦闘体制を解いた。
 「止めだ、止め」
 「?・・・・・」
 一歩引いて、溜息と共に紫煙が浮かんでいる。肩透かしへゾロが怪訝そうにし
ていると、足早な男は先を歩き出した。
 「こんな事してる場合じゃねェ。テメェも早く来い」
 「あ?」
 前を行く背中を、取り敢えず追ってみる。打ち切られた会話にゾロが視線を向
けてみると、相手は歩きながら言った。
 「何で、居ねェんだよ」
 「?・・・・・・・・」
 「じっとしとけつったのに。出来たら呼ぶつったのに」
 もしや口論の再開かとぼんやり考えていると、すたすた歩くサンジは言った。
 「朝からお前の好きなモンを沢山準備して、出来上がって一番旨ェ時に喰わせ
てやろうと思ってたのによ」
 「・・・・・・・・」
 「肝心な時に、テメェは居やしねェ」
 町中で合流した少し前。喧嘩の勢いで忘れかけていたが、剣士はサンジの様子
を思い出した。
 日暮れの広場を見渡していた、彼の姿を。懸命に自分を探していたらしい、男
の事を。



 「…悪ィ」
 唯一頭に浮かんだ一言を、ぽつり。すると前を行く人が、僅かに静止する。
 そんな反応を眺めながら、ゾロはもう一度その背中へと言った。
 「泣くな」
 「だっ、誰が泣くかッ!?」
 ぎょっとした男が振り返る。剣士へ向けられた顔は、驚愕の色であって本人の
言うように泣き顔ではない。
 「お?泣いてねぇ」
 「泣いてねェつってんだろ!?何言ってんだ!クソ野郎!?!」
 「けどてめぇ、俺を見つけるまで泣きそうな面してたじゃねぇか。てっきり、
今もそうかと思ってよ」
 「な・・・・・」
 色白な顔が一気に変化していくのが、薄闇の下でも目に映る。
 絶句した相手が固まっていると、剣士は月明かりを受ける金の髪をあやす様
に撫でた。
 「ま、泣いてねェならいい」
 硬直中の男の横を抜け、今度はゾロが歩を進める。一向に動かないコックに、
可笑しそうな男は声を掛けた。
 「早く喰わせろよ、テメェのメシ」
 数秒後に賑やかな音が近付いて、ゾロの横へ並んだ。どんな顔をしているのか
見てやろうとすれば、遮るようなサンジの手が剣士の顔をぐいと押した。
 「余所見してんじゃねェ、そんなんだからいつも迷うんだよ。しゃんと前見て
歩きやがれ」
 「んなら、その手退けろ…」
 ぐいぐい押されて、頬が突っ張る。



 怒りのゲージが少しずつ上がってきた頃、隣の人はゾロへ問いかけた。
 「お前、陸へ降りてどっか行くつもりだったのか」
 「あ?」
 迷子の訳を尋ねられ、頬にある手を払う。
 「待てって言われて甲板で鍛錬すりゃ…」
 「ん?」
 「パーティの小道具持ったルフィに吹っ飛ばされっし、んなら昼寝で時間潰す
かと思えば…」
 「あぁ?」
 「ラウンジを行き来するナミや、巨大化したチョッパーに踏まれた」
 ぶっ!!とサンジが吹き出している。
 「船に居たら邪魔そうなんで、近くで寝る場所探してたら…」
 「例の如く迷子になった訳か」
 「迷子じゃねぇ」
 暫く腹を抱えて笑った男は、どうしようもねェなと繰り返す。
 「天下の大剣豪を目指そうかってヤツが、そんなんでこの先生きて行けんのか
よ?強いヤツ倒しに行きました、そんで迷子でした…じゃどうしようもねェぞ?」
 「…3遍も、どうしようもねェって言うな」
 「救いようもねェぞ?」
 「くどいなテメェ!!!」
 「迷子の為のログポーズとかあったらいいのになァ?」
 「いい加減斬るぞテメェ!!!」
 一人は哀れむ溜息を、もう一人は疲労の溜息を吐く。後者の男は面倒そうに、
隣へ言った。
 「そんなに気になるなら、いつも側で見ときゃいいだろが」



 ゾロの一言に、聞いていた連れが目をぱちくりとさせる。
 「は?」
 「テメェが横に付いときゃ、んな心配は解決すんだろって話だ」
 「・・・・・・・」
 サンジが不思議そうに首を傾げる。そんな反応に今度はゾロが妙な顔をした。
 「何だ?」
 「…それって、まさか愛の告白か」
 「知るか」
 「知るか、ってテメェな…!!」
 いい加減な返答に呆れる男を放って、剣士が歩き出す。暫くして木を踏み拉く
音に気付いた相手が、我に返った。
 「ってオイ!?一本道なのに、なんで何もねェ場所へ曲がってんだテメェ
は?!」
 本道を反れる男へ、大声を上げてサンジが駆け出す。
 「人の話聞け!!コラァァ!!このマリモ!!!!」
 「マリモじゃねェ!!!」
 「全くテメェは…俺がついてないと、てんでダメだな!!」
 「ダメって言うな!!!」
 振り返った男の側へ、笑いを堪え切れない人が倍に言い返しながら追いついて
行く。
 遠のいていく二つの姿を、月が笑うようにうっすら照らした。
 
 
 END


『アオニサイ。』めいれん様よりいただいてまいりマシたv
素直に詫びる旦那が何やからカワイかったデスvvv
そして違うと言い張りつつもやっぱり迷子(笑)
そうそう、サンちゃんがついてりゃ問題なしデスv
ってオチにダメ言われてるし(笑)
めいれん様ありがとうございマシたv


→2006ゾロ誕
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