--- あげられるモノは、何もないから ---



バゴンバゴンさ さっきから
オレけっこう喧嘩強いんだけどさ
今回は別 やっぱ15人もいたら無理 あっという間に取り囲まれた
生意気に見えたんだってさオレ 理由はそんだけだ

通い慣れた公園の奥の奥の方 砂場の先の春なら桜の茂るような場所
今は11月だから親子連れでもいりゃー助かったかもしれないが
今はもういい感じの夜だしな
アイツにやろうと思ってたケーキが潰れてった
白やらイチゴ色やらしましまのローソクやら その辺散乱しまくった
夏場ならアリが大喜びしてくれたろうが この時期どうだろうな
ネコが食べてくれるか あ〜あ
オレはメゲた これからゾロんち行くのが辛い

今日はゾロの誕生日 初めてケーキ作ってやったのにな
チクショーだあいつら 来年ゾロもオレももう卒業してバラバラんなって
希望大学通れば遠距離なんとかやんだぜ? わかってんのか?あいつら
もう 今日しかないのに
最後の一緒の誕生日やるはずだったのに
もう オマエにあげられるものは何もない

チカチカ今にも消えそうな公園の街灯にイライラするけど
でも動けないでいる 心だってカラダだって 辛くて悲しくてボロボロで
誕生日なのにな ゾロの

寒いんだってココ ジャンパーん下Tシャツ一枚で来たんだ
どうせアイツんちで暖まれるしと思って
こんな寄り道の想像なんかしてなかったし
こんなキズだらけの顔見せる予定もなかったし
全部予定外 オレの思う所じゃないイベント
どうしたらいいんだろう なあゾロ

あんまりに遅かったせいだろう ゾロが電話をしてくれた

「今どこだ?」
「……ごめん」
「なにが?なんのごめんだよ、それ」
「だから……ごめんな ケーキブッ壊れた ついでにオレも」
「はぁ? ……おまえ今どこ?」

駆けつけてくれたゾロだったけど こんなボロボロだオレ
目の前の散乱しまくったケーキを眺めさせるのはあまりにオレが辛かったんで
人の往来しそうな場所まで足を引きずりながらどうにか辿り着く

「おい ……派手にやられたな 他校の奴等か?」
「知らねえよ それよかさ」
「おまえ ケーキどこやった?」
「だから ケーキボロボロんなったって……おいっ!きいてんのか?」

ゾロはオレのケーキの残骸を探しに行った
公園の奥の奥のオレが見せたくない場所まで走って行くゾロ
はー情けない

「あれかよ ……プレートくらいないのかよ……っち」
「時間ギリギリんなってさ プレートつけんのすら慌ててさ 結局失敗してやめた」
「箱くらい持って帰るか おまえ俺の寮くんだろ?」

ゾロは遠方から来てるから学校の寮に入ってた
男同士だからな あんまガミガミ言われないのがラッキーなんだ
俺はしょぼくれながらゾロのちょっと後を歩いた
もうやれるものがないことがショックだった
精一杯のプレゼントがなくなってしまうのはまだ受け止めてないゾロよかショックかも?
とか自己中心的感情ばかりが燃える

「ごめんな」
「何度言っても仕方ねーだろ もう気にすんなよ」


ゾロの部屋について溜息ばかり出るオレを慰める役にしかまわれないゾロは可哀想なヤツだ
こいつの誕生日なのにな
辛い この場所にいんのが

「もう 何もやるものがないってのがさー 悔しくて悔しくて」

あ〜〜〜〜〜〜 苦い空気はオレのせい
どっぷり後ろ向きなのもオレのせい
つまんねえ誕生日を送ってやってんのもオレのせい
くそくそくそ!!

「あのなー」
「……暗くて悪い だってよー」
「おまえ 直に持って来ただろ? それでいいじゃねえか 俺はそれで充分」
「だから! それが無いってさっきから言ってんじゃ………!!」

ゾロが俺を抱いたんだ こんな何もないオレをさ

寮だから静かに驚かなきゃいけないから 息止めたよ とりあえず
デスク上の剣道大会でもらったトロフィーがちょっとカタッ…とか音がしたけど
それでもオレたちは静かに密着したままだ

今年の夏休みの体育館裏で初めてしたキス以来だった 二度目のキス
あの時オレから仕掛けたキスだったけど 今日はゾロがオレを抱いてキスしてくれてる

「おめでとう 言えよ コラ」
「塞がれたままじゃ言えないだろ コラ あっ!ソコなにげに痛いし イテテ……」

抱きくるめるその熱い両手にオレ 自分がケーキならどんなに楽だろうとか
ばっかみたいなこと考えてた あほだ
デスク横のベッドにオレをゆっくり乗せたくせに ゾロが枕に顔を埋めた

「ちょっと待ってくれ 俺が焦ってんじゃどうしようもないだろ 息させろ 悪い」

オレの胸 今鳴った このプレゼントもないヤツを抱きながらこいつ 感激してんのか?
オレは何もないけどゾロの頭を撫でた ゆっくり短髪の中指10本泳いでみせた

「オレをもらってくれよ 改めて言うのもなんだけど それでいいんなら」
「……この流れ見りゃわかんだろ それしか最初っから考えてなかった 俺なんか」
「ケーキは? んじゃオレのケーキ制作の時間とか労力とか愛情とかは?」
「……今からそれも堪能するってことで 許せよ? アッという間だったりしても」

その後のオレたち
アッという間だったのか超長かったのかそんな記憶はゼロ
とにかく味わったことのない時間を共有してる喜びの方が大きくてたまんなかった
ゴメンとオメデトウを繰り返し唱えた 
来年はこういうのないかもしれないんだしと思う辛さが余計燃え上がってオレは繰り返し唱えた
そんなに言うなってゾロは言ったが仕方ないだろ オマエの誕生日なんだから



あれから切ない一年が経った

オレたちはそれぞれの希望大学に合格し 予定通り遠距離ナントカをしてる
オレはケーキ屋でバイトしてる 家でもケーキ作って精進してんだ
すべては今日のゾロの誕生日のために
バイトを早退してゾロのいる街まで列車を乗り継いで向かう
また寮だ 去年と違う場所のゾロの寮 そりゃそれで心が躍る
ケーキ良し! 今夜は喧嘩もないだろうしさ 後はコケないことを祈るだけだ

ゾロ 今年は何もないなんてことないから
ゾロ……

「来たよ ほれケーキ」
「待て そっち後でもいいだろ こっち先だろ やっぱ」
「おいおいおい……」

なんか去年の展開と同じじゃねーかコレ…とか思いつつもオレは抱かれた
去年と違うのは 抱かれてもカラダ中痛くなくて
けど抱かれれば抱かれるほど胸の奥が切なくなって
離れてる環境がリアルにたまんなくなって泣きそうになることだ

「おまえさ もう去年みたく『何もやれるもんない』とか言うなよ?二度と こっちが切ないぞ」
「んなこと……一年経ってからわざわざ言うな ばか オレだってなー……」
「同じだろ? やれるものなんてお互い一緒じゃねーか 充分なんだよ それで」

だめだった 泣いた
同じって所にキた オマエとオレは同じなんだ もうそれ以外何も必要ないかのようだ

「ごめんな ゾロ」
「おいおい それ去年も同じ台詞じゃねえか」
「あ そうだ ヤベー ごめん……あ また言った」
「ばかやろうだなーおい ……サンキュな」


今年の誕生日はそういうわけでやっとケーキにローソク灯して祝った
来年もこうやって祝えるといい
ゴメンとかオメデトウとかちょっと告白めいた台詞じゃない言葉をつぶやきながらさ
そういうのでいい
だってさ 他にオレたち 何もあげられるものなんてないんだから




おわり





参加させていただきマシたゾロ誕企画サイト「凌駕煩悩乱レ咲キ」様にて掲載されておりマス『W.A-Side』八木橋様の作品をいただいてまいりマシた!!
拝読した瞬間、これはいただくしかないと(笑)
いや、もぉあげるモンがないって悔しがるサンちゃんとか堪えきれなくて泣いちゃうサンちゃんがあまりにもカワイイv
そしてお初だぁ〜vvv←オヤジ(汗)
八木橋様ありがとうございマシたv


→2005ゾロ誕
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