飴のようで鞭のようなきみ





・・・・・・かーわいーいなァ〜。



 え? 
 ナミさんかって?
 そりゃナミさんは可愛いぜ。可愛いに決まってんじゃねェか。
 ナミさんっていう存在そのものがモーレツにプリティなんだからよ! 
 可愛すぎて、いまさらしみじみ思うようなレベルの可愛さじゃねェんだよ。
 お分かり?



 じゃあ、ロビンちゃん?
 そう思うだろ?



 こ・れ・が!
 ちがうんだな〜。
 ロビンちゃんは可愛いっていうよりも、お美しい〜って感じ?



 おれが、かーわいーいなァ〜、とニンマリ眺めちゃうのは、人外の色である緑の髪をつんつんと立たせ、臭ェ腹巻をした、岩みてェにゴツイ野郎だって言ったら、どうする? 



 まず、信じられねェだろうなあ。
 レディ至上主義かつ野郎至下主義の、このおれさまがあんなムッサイクッサイウザイの三重苦野郎を愛でているなんて。



 え? あんにゃろーのどこが可愛いんだって?
 そうだな。
 敢えて言うなら、絶対に懐かねェトコロだ。
 餌を与えたら、ぶんぶん尻尾を振りまくる飼い犬も可愛いけど、チャレンジャーなおれとしては、絶対に誰にも愛想を振らねェ、高嶺の花・・・・なんて可憐なモンじゃねェが、野性のドーブツっぽいあんにゃろーが、可愛くて仕方がない。
 サンドイッチを作るために余ったパンの切れッ端をやると、もぐもぐ食いやがるんだぜ?
 斬撃を飛ばすことも鉄を斬ることもできるきっと今の世界で一番大剣豪に近い野郎が、パンの切れッ端に、にこにこしてやがるんだぜ?
 

 かーわいーいなァ〜・・・・・。



 そう思っちまっても、無理はねェだろ?









 仲間である黄色い頭のグルグル眉毛は、どうやらおれに惚れているらしい。
 そりゃおれの勘違いだって?
 いや、最初はおれもそう思ったが、これだけ四六時中一緒にいりゃあ、それがどんなにイケ好かない相手であろうとも、ある程度、その人物の人となりが分かってくる。
 おれは他人に無関心だとか、鈍感だとか言われるが、実際のところはそうじゃねェ。人間を観察することは、どちらかといえば、おもしろい。ただ、それを知ったからと言って、何も行動をしようとしねェから、何も気付いていねェように見えるだけだ。
 だから、おれが言いたいのは、他人の心の機微ってやつにある程度関心があるってことだ。
 アホコックがおれに惚れてんじゃねェか、と思ったのは、パンの耳をおれにくれた時だった。
 そん時、キッチンにいたのは、おれとコックのふたりきり。
 おれに背を向け、何か作業をしていたコックが振り返り、
「ほい」
 パンの耳を差し出したのだ。
 腹が減っていたおれは、それがコックの手に握られたままであることなど目に入らず、それにぱくりと食いついた。
 すると、コックは驚いたように目を丸め、すぐに次の耳を差し出してきた。
 食うか?
 食うか?
 まるで、野良犬に餌をやって、それを食べるかどうか、期待しているガキみてェな顔で、おれを窺う。
 おれは、気にせず、再び、コックの手から耳を食べた。
 海賊船とは思えない凝った料理を提供する料理人は、時々、手製のパンを焼く。どうやら、このパンもコックお手製らしい。そこらのパン屋では食べれねェ、ふんわりとした触感、と甘み。
 コックには、味音痴と思われているようだが、おれにだってちゃんと味覚がある。
「うまい」とか「マズイ」ってことを口にしねェだけだ。うまかろうが、マズかろうが、そこにあるものを食べる。それでいいじゃねェか。
 いちいちそれに対して、感想を述べる必要なんてねェ。
 差し出されるがままに、耳を食っていたおれは、突然、コックがビクッと手を引いたので、食べかけのそれをぽろりと落としてしまった。
 もったいねェ。
 落ちた耳を拾って一口で食べてから、もっとくれ、とコックを見ると、コックの様子が変になっていた。
 茹でタコみてェに、耳まで真っ赤にして、硬直している。
 胸の前で片手をもう片方の手で握り締めている。




 ・・・・・・・あ。




 そこで、おれは気がついた。
 パンの耳を食っているうちに、ついコックの指まで噛んでしまったことに。
 けれど、コックは痛がっているようには見えなかった。痛みというよりは、ただ驚いているだけ―――――みてェだ。
 もっと言うなら、ドキドキしている・・・・・・んなバカな。
 この状況じゃ、コックがドキドキしているのはおれに対してなわけで、んなのはありえねェ。
 けれど、突然、コックが茹でタコのままで、
「あ・・・・・あとは、向こうで食え!!」
とパンの耳を袋ごと投げて寄越したのは、明らかに不自然だった。
「・・・・・・」
 甲板へと続く扉を開ける際に、ちらりと後ろを振り向くと、いつもより肩に力の入ったコックが調理機材を洗っているところだった。
 いつも丁寧な手つきのくせに、今日はやたらと乱暴だし、耳はまだ真っ赤なままだ。
 その背中には、ゾロを意識しています、と書いてあった。
 



 へえ。
 あの、オンナに馬鹿みてェに甘いエロコックが、おれを。



 だからと言って、どうってこっちゃねェ。
 コックとは普段通り、ケンカをする仲だ。
 ただ、誰の目にも触れないところでは、コックは少し優しい態度を取るようになった。
 見張りの時に飯を持って来る時や、寝ているおれを起こす時や、鍛錬の合間に飲み物を差し入れる時など。
「クソ剣士!」
と、五秒前まで怒鳴っていたくせに、急に、
「ゾロ」
とか甘えた口調で呼びかけてきたりする。
 その後、自分の甘さに気がつくのか、慌てたように、
「さっさと食え(起きろ)(飲め)よ」
などとぶっきら棒に付け加える。それが見え見えなのは、コックの顔が常に真っ赤になっているからだ。
 どうやら、コックは照れ屋らしい。しかも、肌の色素が薄いせいか赤くなりやすくて、ナミやロビンよりも、よっぽど初々しい。
 いや。初々しいっていうのは気持ち悪いな。言い換えるなら、・・・・・・ガキくせェ。
 ルフィ達とバカやっているアイツもかなりアホっぽいが、アレは悪ガキっぽい。だが、おれを意識しているアイツのガキっぽさは、慣れてねェっつうか、無知っつうか、純粋なガキっぽさだ。
 うまく表現できねェな。
 とにかく、そういう感じだ。
 だから、ちょっと興味が湧いた。
 もし、おれが突然、キスとかしてやったらどうするんだろう―――――?
 思いついたことは、即実行するのが信条のおれは、早速、コックが料理の仕込をやっている深夜のキッチンへ向かい、
「どうしたんだ、ゾ―――――」
と、振り返った瞬間のコックの唇を奪ってみた。
「・・・・・う?」
 コックの睫が頬にバサバサと当たった。驚いて、瞬きを何度もしたらしい。
 そんなことは無視して、おれはコックの下唇をぎゅーぎゅー吸い、舌で歯茎を舐めてやった。
 何をされているのかようやく理解したらしいコックが暴れ出した頃には、おれの舌はコックの口内をひとまず一巡し終わっている早業だ。
 更に深く味わおうとコックの下顎にかけた手に力を入れようとして、最初の目的を思い出したおれはコックの様子を見るために目を開けてみた。
 すると、コックの閉じた瞼が目の前にあった。
 薄い皮膚にうっすらと血管が透けて見える。睫毛が、ふるふると震えていた。
 ・・・・・とことん、ガキくせェ。
 十九歳だぞ、おれもコックも。
 キスくれェ、どうってこっちゃねェだろ。
「う〜〜〜っ!!」
 ドン!
 呻きながら、コックの拳が、おれの胸を叩いた。
 往生際悪く逃げ惑いはじめたコックの舌を追いかけ、逃げたことに対する腹いせに、根元から吸い上げ、歯を立ててやる。
「・・・・・ッ」
 痛みを感じたコックが更に逃げるのを許さず、唾液の溜まっている舌の裏を舐め、ぬるぬるとした粘膜を何度も擦り合わせると、
 ドン!
 ドドン!
 おれを押し返そうとする、コックの力が強まった。
 おれはそんなコックの状態を薄目で観察していたのだが、そのとき、閉じられていたコックの瞼が開いた。
「・・・・ぅっ!」
 お、おい・・・・!
 ・・・・てめェ、その顔はやべェだろ。
 今までオンナに涙目で詰られたことは何度かあったが、そんなモン宇宙の果てに消し飛ぶくれェ、涙で潤んだコックの瞳に衝撃を受けちまった。
 普段は黒い光沢を帯びているコックの瞳は、間近で見ると、その奥に深い海の底のような蒼が重なっている。
 涙で濡れると、その蒼は色を濃くし、光の当たり具合によっては、青くキラキラと透けて輝きやがる。
 夜空を飽きもせず眺めていたガキの頃みてェに、無意識に、見蕩れちまうくれェ―――――言いたかねェが、何かの気の迷いとしか思えねェが、―――――きれ・・・・・・。



 いや、やっぱり言いたかねェ。
 と言うか、言えない。
 こりゃコックだ。アホでパッパラパーで頭のヨワイ可哀想なコックだ。
 間違っても、キスしたり、それに溺れたり、顔中舐めまわしたり、髪の毛を撫でたり、涙目のコックの姿にちんこを起てたりしちゃならねェ。
 気をしっかり持て。
 状況に流されるんじゃねェ、ゾロ。
 いいか。お前はしばらくヌイてなかっただろ?
 だから、溜まりに溜まって、コックごときにでも反応しちまっているに過ぎねェんだ。
 落ち着いて、よく考えろ。
 そうだ。コックの、グルグルしている眉毛を見ろ。
 グルグルグル・・・・・カーブもきれいに揃って生えている変な眉毛を見ろ。
 100パーセント、萎える。
 萎えなきゃ、おかしい。



 ・・・・・おかしい。
 萎えねェ。
 そうこう言っているうちに、コックの服を脱がしてんじゃねェか、おれの手!!
 脱がした後は、手触りを楽しんでいるじゃねェか、おれの指!
 手触りの後は、舐めてんじゃねェか、おれの舌!!
 やべェ。
 やべェやべェやべェやべェ・・・・!



「・・・・てめェは、こういうコトしねェんじゃねェかって思ってた・・・・・」
 息を荒く吐いているコックはそう言う間にも、全身を震わせ、言葉を詰まらせた。涙目ではなく、最早、涙が頬を伝って落ちる。
 いつも殴っているコックの皮膚が、これほど滑らかで、触り心地がいいなんて思いも寄らなかった。
 もう我慢ならねェ・・・・ッ。
 ごちゃごちゃ愛撫しているうちに、爆発寸前になっているおれをどこかで処理しなくちゃなんねェ。
 コックの身体や気持ちの体勢など気にしていられねェ。ここまで来りゃ、出すしかねェ!
「いっ・・・・!!」
 形振り構わず、コックの後方の襞に先端を押し当てる。暴れるコックを羽交い絞めにし、どうしても入らない先端を挿入する道を作るため、指を突っ込んでみる。
「うぎゃ・・・・・・」
 釣り上げられた魚みたいに暴れていたコックが大人しくなった。
 ―――――慣れてねェな。
 指の感触は、そこの部分が使い込まれていないのを告げている。
 まあ、キスくれェでヘロヘロしちまうような、ガキっぽいヤツだからな。当然か。
 はじめてだろうが、百回目だろうが、おれは気にする性分じゃねェ。少々キツくても、それはそれで面白い。
「・・・・・クソコック。息を止めるな。長く吐け。―――――おれが好きなら、努力しろ」
「ム、リだっつーの・・・・・ッ」
 なかなか緩まない部分に、暴発しそうなおれは一刻の猶予も争えなくなって、つい言っちまった。
「おれも・・・・てめェが好きだ」



「へ?」



「いつの間にか、てめェに惚れちまったのは、おれも同じだ。だから―――――ゆるめろ」









 つまんねェ。



 そりゃ、穏やかな海域の航海だからだろって?
 んなわけあるか。
 海が穏やかであることはいいこった。嵐の恐ろしさを知っているだけに、しみじみ実感するね、おれは。
 

 つまんねェのは、おれの楽しみがなくなっちまったことだ。
 

 懐かねェと思ったのになァ・・・・・。



 あっさり。簡単。お手軽に。
 あのクソ腹巻野郎が手に入っちまった。
 まさか男相手でもOKなヤツだとは思ってもみなかった。


 おれは痛む腰を摩りながら、格納庫でじゃがいもの入った麻袋を担ごうとしたのだが、それは横から伸びてきた手によって奪われた。
「運んでやる」
 言い捨てたゾロが、のっしのっしと麻袋を持って、キッチンへと向かって行く。
 あーあ・・・・。
 意外と、マメなんだな、てめェ。
 おれは後に付いていく気にもならなくて、樽の上に座り、煙草に火をつけた。
 昨日は、まさかいきなりゾロにキスをされ、バックヴァージンを奪われる羽目になるなんて想像すらしていなかった。
 しかも、行為中に、
「好きだ」
を連呼された挙句、次の日からはすでに恋人気取りってヤツですか。
 


 あー・・・・つまんねェ・・・・・。



 全然、高嶺の花じゃねーじゃん。野性のドーブツでもねェ。
 緑の髪の毛と同じで、道端に生えている雑草みてェなもんだった。誰の手でも簡単に手に入る。簡単すぎて、誰の興味も引かないし、存在していることすら目に入らない程度の。
 チャレンジャーなおれが求めるに相応しくねェ野郎だった。
 やっぱ変な挑戦はするんじゃなかったぜ。
 おれには素敵なレディがお似合いだ。ナミさんに、ロビンちゃん。まずは身近にいる彼女たちに目を向けよう。だって、彼女たちは正真正銘、高嶺の花なんだからよ。


 と、なると、早速アホ腹巻に言ってやらなくちゃなんねェ。二度とおれに近寄るなってな。
 おれは野郎に懐かれたかねェんだよ。
 簡単に手に入るモンもいらねェ。
 何を勘違いしたのか知らねェが、ガキじゃねェんだから、もっと大人になりやがれってな。







『海賊航路』夏様よりいただいてまいりマシた〜!!
ゾロ誕企画「飴と鞭」様に投稿されておりマス作品デスv
タイトルに偽りなし!(笑)
ウン分かるような気が致しマス。
手に入らないからこそってやつデスよね〜v
そしてこれから旦那はどうなっちゃうのぉ〜???
気になりマス気になりマス!!
夏様ありがとうございマシたv



→2005ゾロ誕

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