祈りなど、欲しいだけいくらでもくれてやる





両手を拘束され、目隠しまでされた状態で、灼熱の欲望の滾りを拒む身体を、強引に開かされる苦痛に、サンジは先ほどから耐えていた。
 濡れない器官は、異物を奥へと飲み込む機能がなく、排出するために激しく蠕動し、体内に埋め込まれるモノの太さ、大きさ、熱さをより締め付ける結果になってしまう。
 苦痛を訴えるための声は出ない。
 口の中の唾液は、暴漢に突っ込まれたサンジ自身のネクタイに吸収され、声を出すことを完全に封じられている。
 五感のうちの視覚が封じられ、身動きもままならないということが、まるで何もない暗い闇の底へと沈められたかのように感じさせ、それを補うように、聴覚と触感を研ぎ澄ませている。
 サンジの今の世界は、生々しく出入りする肉の棒を受け入れることだけで閉じている。
「・・・・・っ」
 急に身体を抱き起こされた。
 内部に埋め込まれたままのそれが、サンジ自身の体重と重力により、ぐぐぐ・・・っ、と内壁を抉る。
 それを予測できない状態で施されたサンジは、あまりの衝撃と痛みに呻き声を上げるしかない。
 みしみし、と腰骨と背骨が軋み、腰を突き上げる凶器は動きを止めることなく、貪欲に侵攻を繰り返され、気を失いそうになる。
 実際、今のサンジは拘束などされなくても、なんの抵抗も出来ないだろう。
 下半身に、全く力が入らないのだ。相手に後頭部を支えられていなかったら、後ろに倒れこんでいたに違いない。。
 飢えた野獣のような男の息遣いが、耳朶を打ち、次には耳の中を舐められた。舌先が鼓膜まで届きそうなほど差し入れられ、そのまま脳髄までしゃぶられるのではないか、と身体が震える。
 これほど乱暴に求められたことは、なかった。
 甘い感情などありはしないが、戦闘で荒ぶった気持ちを鎮めるため、或いは、単なる性欲処理で、仲間である剣士とお互いを慰め合うことがあったのは認めるが、男同士で、ここまでの最終行為に及ぶだけの欲情を覚えることはなかった。
 普通の理性があれば、決してそんなことはしない。
 同性を縛って、犯すなど―――――。
 ましてや、今、サンジを無残に貪っている相手―――――のことは、よく知っている。彼は、敵には容赦しないが、仲間に対しては実は義理深いことだって分かっている。
 大剣豪への道のみをひたすらに追求するその姿は、サンジがからすれば、十分に禁欲的、克己的な精神に基づいた、自虐的なまでの清廉さであった。


 今夜は、特別なのだ。


 目隠しされる前に、最後に見たのは、見事なまでの満月。
 単なる満月ではなく、異様に赤く、その不吉さと禍々しさに、背筋がゾッとするような月夜。
 停泊している海賊船で船番をしていたサンジを殴り、気絶させ、ゾロはどこかへと運んだ。気配からして、屋外。冷たい雑草が、サンジの肌に触れ、近くに水場があるのか湿り気を帯びた空気を運んでくるのを感じられる。
 そして荒々しく衣服を引き裂かれ、何の準備も、もちろん断わりもなく、上位の動物が下位のものを支配するように屈服させられた。
 不意に襲ってくる竜巻のように、サンジの未開の地をゾロの暴力は横暴に荒らした。
 激しく揺さぶられ、朦朧としていたサンジの意識は、体内のゾロが膨張し、熱い液体を迸らせたのに、現実へ引き戻される。
 直腸の奥深くの更にその先まで、吐き出されたものに犯される。ゾロだけでも相当苦しいのに、排出された容量分が加わると、もうサンジの中ははちきれそうだ。
 腰を掴んでいるゾロの手に力が入り、逆流する液体を果てしもなく搾り出され、
「あう・・・・っ」
 思う存分に吐き出せない悲鳴が、喉元でとぐろを巻く。
 目隠しに使われているゾロの黒いバンダナは、絞れば、滴り落ちそうなほどの涙でぐっしょりと濡れている。
 最後の一滴まで、サンジの中に吐き出すと、再び、驚異的な速度で強度を取り戻したゾロの激しい蹂躙がはじまる。
「くぅ――――ッ!!」
 耐えられない。
 サンジの意識は、とうとう途切れた。
 紅い満月の残影が、脳裏を過ぎった。



 明け方、すべての拘束を外され、サンジは明るさと自由を取り戻した。
 獣のように荒れていたのが嘘のように、久しぶりに見た男の顔は静かだった。
「――――――行くのか」
とだけ、サンジが聞いた。
「俺の命は、そのために生かされている」
 サンジの問いに、ゾロは穏やかささえ感じさせる笑みを浮かべた。
 それで、サンジが全てを知っていることを既に分かっていたのだと知った。
 特別な夜だった。
 誰に教えられたわけでも、確認したわけでもなかったが、サンジにはそれが理解できたのだ。
 ゾロが野望を果たす対戦を控えた、最後の夜。
 夜が明け世界最強の剣士を決する闘いで、流される血を予感したかのような紅い満月。
 サンジはゾロの中に生存本能での欲望の高まりと、人生を賭けた覚悟を感じ取っていた。相手の肉体と深く繋がった先には、ゾロの魂に少し触れたような気がした。
「最後の、最後に、好き放題やりやがって・・・・・」
 起き上がれず、恐らく傷ついているだろう部位を思って、悪態を吐くと、ゾロが素直に謝った。
「悪かった。てめェしか・・・・・思いつかなかった」
 縋る相手を。
「ふん」
 だからって、あそこまでするか。
 そうじゃないか、と分かってはいたが、許す気になどなれない。
「クソ剣士に、ひとつ貸しだ。帰ってきたら、返してもらう」
 大昔に、バラティエで見た当代大剣豪とゾロの死闘を思い出す。簡単に帰って来られるとは思わない。お互い、それは分かっている。
 だから、サンジは言った。
「帰って来い。祈りだけなら、いくらでもくれてやる」
 ゾロは頷きも、否定もしなかった。サンジの顔に上から下までゆっくりと視線を這わせ、朝焼けに染まる空を見上げた。



 祈りなど、欲しいだけいくらでもくれてやる。生と死の境界線を辿るような剣士の行く末に、光が射しますように。
 だから、ゾロ。
 絶対に―――――。



 戦闘開始の朝。
 今生の別離に追い詰められた特別な夜は終わり、野望という名の揺ぎ無い一本道を進み始めたゾロの背中をサンジは石像にでもなったかのように、見送ることしか出来なかった。






『海賊航路』夏様よりいただいてまいりマシた〜v
「凌駕煩悩乱レ咲キ」様に投稿された作品でございマス。
なんと言うかもぉ、二人ともカッコイイ!!
縋る相手を決めたゾロも、黙って受け入れたサンジも。
互いだがらこそ、埋められた何かがイイvvv
敢えて「許さない」事もカタチ、デスよね〜
夏様ありがとうございマシたv


→2005ゾロ誕
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