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 穏やかな天候の続く、お日さまの下。甲板の上、新たな武器の開発に狙撃手
が情熱を注いでいる。
 「熱心なこったな、ウソップ。」
 からん、と心地よい氷の音を立てて特製フルーツジュースをコックが差し出
した。
 プレートの上には、アンバランスにもタバスコのボトルが5本乗っている。
 「特別に分けてやる。大事に使えよ?」
 「おっ、サンキュー!!恩に着るぜ!これでタバスコ星スペシャルを作るか!
タバスコ星のパワーアップだ!!」
 ドリンクの側にある貴重な材料を手に、あれこれ構想を練り始める。
 「よし、じゃあ完成の暁にはお前へ一番でこの威力を見せてやろう!!」
 「いーや、見てて巻き込まれるのがオチだ。俺ァ、遠慮しとくわ。」
 「オイ!!そりゃ、既に失敗を見込んでるって事かよ!?」
 「だってお前の武器って、エセだもんな。」
 「エセって何だ!失敬だな!コラ!!」
 「お前の道具で一緒に宙吊りになった時は、ホントにどうしてくれようかと
思ったぜ?ミンチにするか、捌いてやろうかって…」
 「思うだけじゃなくて、ボコったろ!?あん時!!」
 ビシ!と突っ込む姿に、提供者な相手も楽しそうに笑った。
 狙撃手がプレートからグラスを取った瞬間、背後に何やら殺気を感じ悪寒が
走る。
 「!?・・・・・」
 「オイコラ、長っ鼻。熱心なのもいいが、まずは差し入れを飲めよ?氷が溶
けたら味が落ちちまうだろ?」
 「あ?お、おう。勿論だ、ありがとよ!いつも助かるぜ、サンジ。」
 気付かぬコックはそのまま船長の元へ向かっていたが、長鼻の男は辺りを見
回した。
 気配の元に行き着いて、彼は座ったままで無意識に冷や汗をかく。
 ―― オイオイ!!何だよ、その獰猛っぷりは…!!
 マストに凭れる緑の物体が、鋭い眼光をウソップへと発している。眼光とい
うより、殺人レーザーに近い。
 俺が一体、何したってんだ。と心でぼやき、正視できる勇気はないので、さ
り気なく「こっちが明るいな〜?」と背中を向ける。
 近くではコックが相変わらず忙しそうに動いていた。
 
 
 
 
 雫の光るグラスを取った緑頭の男に、紫煙を吐き出した男は口を開いた。
 「俺様は、忙しい。よって、簡潔明瞭に言え。」
 怪訝な顔をしながらも、剣士が向かいの人物に視線を寄越す。
 「お前は欲しいモンがあるか?」
 ドリンクを半分口にして、喉元でごくんという音が聞こえた。ゾロの反応を
待っていると、少しの間から一言目が出た。
 「さ、」
 「酒は対象外だぞ。万年酒乱の腹巻め。」
 対象外だ、酒乱だと追求すべき所があったが、先手を打たれた台詞でもう一
度沈黙がやってくる。
 彼等の微妙な沈黙に気付いたウソップは、恐る恐る振り返った。幸い、殺人
光線はロックオンされていない。
 飲み物を配り終えたコックのプレートは、既に空である。それを脇に挟んで、
サンジにしては辛抱強く剣士を見ている。
 ―― 今度は何の喧嘩だ、あいつら。…にしちゃあ、やけに静かだ。
 「俺が欲しいモン、か。」
 「おう。」
 何となく眺めてウソップがグラスに口を付けた時、やけに力の入った声がゾ
ロから返った。
 「お前。」
 げふごふガホーっ!! マストより離れの場所、そんな音が響いたが会話中
の二人は耳に入っていない。
 スローな動きの金の頭が首を傾げ、努めて笑顔で言った。
 「俺は、欲しいモンを聴いた筈ですが?ロロノアくん。」
 残り半分を、剣士が一気に飲み干している。
 「欲しいモンだろ。物でも者でもありじゃねぇか。」
 だからテメェだ。と、今度は指差しまで付けて威張った男が言い返した。
 窒息からようやく回復した狙撃手が振り返ると、コックが驚愕で後ずさりし
ていた。
 「ひ、ひでェ…」
 「あ?」
 「いつもいつも口を開けば、セクハラ発言…ひでェよ。お前は俺の体だけが
目当てなんだな…?」
 弱々しい嘆き声と一緒に、コックがプレートで己の顔を覆っている。
 「いつもって何だ!?!誤解を招くような事言うな!!人聞きの悪…」
 「隙あり!!」
 凄い形相の男が怒鳴り出した瞬間、彼の顔面にプレートが高らかな音を立て
て命中した。
 「…なんて、泣くと思ったか?バーカ!作戦・痴情のもつれごっこだ!!」
 ゾロの顔は、見事に赤い円がくっきり浮かび上がる。
 ―― 痴情のもつれごっこって、お前…。
 突っ込むタイミングをなくし、彼等を見ているウソップが呆然とする。怒り
で顔を赤く染め始めた男が、刀に手をやっている。
 「テメェ!そこへ直れ!!!!」
 「テメェこそ直れ!笑えねェ冗談言いやがって!瞬殺だ、こんにゃろ!!!」
 1秒もせぬうちバトルが始まる。あーお前ら、やっぱ暇なんだな。とやっと
長鼻が突っ込んだが、どちらも聞いては居なかった。
 
 
 
 
 そんな騒ぎの5日目の晩。ウソップは、休む前にキッチンへ向かった。
 発端は船長、船医とのお子様トークの最中にある。
 「いっつも楽しそうに献立とか考えてんのに、ずっと動かねェんだ。」
 証言その1によると、いつもの如く摘み食いに潜んだルフィは、気難しい顔
で考え込んでいるコックを発見した。
 レシピを記す筈のノートは真っ白、ペンを持つ手は止まったまま。難なく冷
蔵庫の前まで向かったが、ぼんやりしすぎて煙草を落とした偶然に、未遂に終
わったと船長が笑って話す。
 「体調が悪い訳じゃなさそうなんだけどなー…」
 証言その2によれば、甲板で海を眺めていた青年は突如唸ったり、首を何度
も傾げていたと言う。奇行に見かね具合を尋ねれば、身体はどっこも悪くねェ
んだと苦笑されたらしい。
 証言3はウソップ本人。船長達の言うような行動を見かけた上に、彼にはこ
こ数日目に付いた行動があった。
 料理や掃除などの合間、ちょっとした時間が出来るとサンジは両指を折り、
何かをカウントしている。数は段々減っているようだ。そして数え終わると、
困り顔になる。
 一同で考えてみたが、思い当たらない。一人で居る時はそんな感じだが、他
クルーの前では全く普段通りなのだから。
 「んん!料理は変わらず旨ェし、大丈夫だろ!!」
 「放任主義なんだか、薄情なんだかお前は…」
 呑気に笑っている男の側で、心配性のトナカイが言った。
 「でも、サンジって困った事とかあんまり言わないだろ?俺たちの知らない
うちに、大変な事とか抱えてないといいけど…」
 そんなこんなで、ウソップは一肌脱ぐ事にした。船医の台詞に同感だし、彼
の心配も取ってやりたいと言う人の良さだった。
 男部屋を出た時、バスルームから出てきた男に会った。鍛錬を終えたらしい、
剣士である。
 二人はどうやら同じ方向へ足が向かっていて、横を見たゾロが口を開いた。
 「…キッチンへ行くのか?」
 「おう、ちょっとサンジに話があってな。」
 剣士はウソップを凝視してふと、向きを変えた。チョッパーとの約束で頭が
一杯だった男は、ドアを開いた所で自分しかいない事を知った。
 ―― ゾロが居ねェ…まァ、二人の方がこう言うのは話し易いかもしんねェ。
 中ではテーブルに本を広げ、けれど読んでいる様でもない青年が一人。
 「サンジ、ちょっといいか??」
 数秒してようやく気付いた風の男が、ぼんやりと振り向いた。
 「おォ、長っパナか。どした?あのクソ剣士じゃねェから酒…じゃねェよな。
あ、インチキ武器でも完成したか?」
 「インチキ言うな、うオイ!!」
 お約束の突っ込みは忘れず、それから改め両腰に手を当てる。
 「悩める青年、何かあるならこのキャプテン・ウソップに相談したまえ!!」
 どーんと効果音の聞こえそうな勢いで、胸を張って言い切った。
 「…寒ィ、閉めろ。」
 中では青い瞳がじっと見ていて、直ぐに淡々と返してくる。狙撃手はどうも
すみません、と縮こまり静かにドアを閉めた。








 コックは鍋で何かを煮ながら、以外に明るい声で語った。
「イヤ、全く…正直言って煮詰まっちまってる訳だ。」
 マグカップを2つ出して、きびきび動く背中が見える。ウソップが耳を傾け
ていると、どこかで小さな物音を聞いた。
 「考えちゃいるんだが、さっぱりでな。その癖容赦なく、日ばっか過ぎて行
っちまう。あと3日しかねェよ、クソ。」
 参った参った、とコックがぼやいている。
 「お前達の事は考えると、思いつくのにな。例えばレディ達にはとびっきり
の花やアクセサリー、クソゴムはとにかく食い物がベスト。お前は工具品とか、
チョッパーは本だとか。その人が喜んで相応しい物ってのは、こんなに思い浮
かぶのに…なんでか、」
 「あぁ。」
 「何でか、あのクソ腹巻のモンだけは思い浮かばねェんだ。」
 「じゃあ、最近の悩みって…ゾロへの。」
 ―― ゾロへの、誕生プレゼントだったんだなぁ。
 「アァ!?こんなん悩みじゃねェよ!単なる考え事だ!あ!他の奴等に言う
なよ!!オロスぞ!?」
 「や、まだ殺されたくないです…。」
 火の元で振り返った男が、必死な顔で念を押す。そんな様子を目にして、先
日の会話を思い出した。
 「酒じゃダメなのか?」
 「ンなモンいつでも飲んでんじゃねェか。あいつは寄港すりゃ、飲みてェ銘
柄選んでやがるし今更だろ?」
 「・・・・・・・?」
 それよか、と加えてサンジの動きが再開される。彼の動き以外に、やはり別
の音が聞こえる。ウソップは耳を澄まし、音を探った。
 「折角のバースデーだ。違う事で、何か喜ばせてやりてェじゃねぇか。」
 ウーロンチャイを作った男が、カップを両手にテーブルへと置く。返事のな
い男は、別を向いて耳を澄ましていた。
 「ウソップ?」
 「なァ、サンジ。あくまでも俺の勘なんだが…もっぺん、本人に聞いてみた
らどうかと思うぜ。」
 音を消して、少年が歩き出す。不思議そうにサンジが見ていると、相手は入
り口の側に立った。
 「そしたら多分、お前の欲しい答えをくれるかも知んねェぞ?」
 そしてドアが彼の手で開かれると、扉の向こうに剣士が居た。苛ついた様な
人は、不貞腐れた顔で通路を左右往復している。
 「ゾロ、待たせたな。」
 外に声を掛けたウソップは素早くテーブルからカップを握り、入れ替わりに
部屋を出た。
 「おい、ゾロ。サンジはずーっとお前の祝いを考えてたんだ。今度こそ、ち
ゃんと答えてやれよ?」
 「なっ!?この…クソ鼻!!!イヤ、鼻クソが!!!」
 「ひでェ…!ひでェぞ〜サンジ…!!」
 少し寂しそうな顔をした人は、早足でお休みと言いながら去って行く。
 キッチンには、秘密を洩らされた男とのっそり入ってきた剣士の二人。ゾロ
の足が、サンジの正面に向かう。立たれた方は、何だよ。と不機嫌そうに吐い
た。
 「欲しいモン、て前聞いたな。そん中に、して欲しくねェ事は有りか?」
 「は?」
 「して欲しくねェ事はある。」
 「な、なんだよ…」
 真剣な瞳が見据えるので、自然とかしこまった相手は問いかける。
 「お前、ウソップと仲良すぎだ。…あんま他の奴らとべたべたすんな。」
 絶句。そして沈黙の後の爆笑、それに混じっていく別の怒鳴り声。
 騒ぎの後で訪れた静寂に何があるのか、それは彼等だけの秘密である。





           END





『アオニサイ。』めいれん様よりいただいてまいりマシたv
サンちゃんとウソやんのやりとりが最高に楽しいデス〜(笑)
そしてセクハラ発言剣士最高〜vvv
鍋と共に煮詰まるコックのカワイイ事ったらないのデスが、剣士のして欲しくない事にガツーンとヤられマシた。
もっと言ってやって(笑)
めいれん様ありがとうございマシたv


→2005ゾロ誕
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