アイも変わらず


 手にトンカチと板を持つ男は、器用に釘を銜えたまま言った。
 「お前ら、ちょっと待て。」
 彼の背後では、一触即発な状態の男達が睨み合っている。振り向かなくても
凄まじい空気に、それでも彼は続けた。
 「もしもーし、後ろのお前達。聞こえてますかー…」
 語尾が敬語なのは己の行動に挫ける手前の現れか。ところがそんな勇気など
空しく、背後の二人は相変わらず殺気を撒き散らしていた。
 「うぉ〜い、君達!俺様がさっきから呼んでますよーよーよー…畜生バカヤ
ロー…」
 どうせ聞いてねェだろとエコーで遊んでみたら、最後だけ聞こえたらしい。
 「…バカつったか、オイ。」
 「邪魔してんじゃねェぞ、長ッ鼻…!!」
 同時に背中の方で低い声が返る。
 心の中でヒィィ〜!?と叫びつつ、辛うじて目の前の陥没した場所を打ち付
ける。既に逃げ腰だったが、哀れな船の損害に見過ごす事も出来ず、傍迷惑な
クラッシャー達へ向き直った。
 「イヤイヤイヤ、今日は引きさがらねェぞ!おおお、お前らァァ!!」
 「あァ!?!」
 「ウヒィ〜〜!?!」
 互いを見ていた筈の凶悪な視線と声が、同時にウソップへと集中する。思わ
ず後退ったが、背後は壁で逃げ場がない。
 「何だ?テメェも喧嘩に混ざりてェのか!?アァ??」
 「んな訳あるかァァ?!」
 死ぬわ!!俺が!!とすかさず返してしまうのは、もはやツッコミ担当の性
だろう。
 「面白ェ。二人纏めてかかって来いよ…??」
 「ハッ、何余裕かましてんだアホ剣士が…その台詞、後悔させてやんぜ?」
 「ヘッ、後悔すんのはテメェだ。ステキ眉毛。」
 「ヨシ、オロス。来い、テメェ等。」
 「人の話聞けよ!?お前等ァァァ!!!!」
 つーか、俺をカウントすんなァ!!と左右にビシバシ突込み、じりっと迫る
男達へ半ば捨て身状態で言った。
 「今日という今日は言わせて貰うぞ!?お前等!!」
 柄の悪い男達が、これまた一緒にアァ!?と吐く。
 「仮にもお前等、恋人同士なんだろが!?!なのに何で、そんなに喧嘩すん
だよ!?!」
 哀れな狙撃手へ迫っていた二人の、殺気が消える。そうしてウソップは、彼
等の表情がぽかんとしているのを目にした。
 喧嘩モードの解けた剣士達は、普段の表情に戻っている。剣士は腕を組み、
コックは顎に手をやって考えるポーズをとっていた。
 「なんで、つってもな…」
 「恋人だろつってもよ…」
 二人の呟きは微妙な疑問系が混じっている。




 「恋人なら何でこんなに船を壊す程、毎度毎度ケンカすんだよ!?」
 「あー…」
 「変だろ!?絶対ェ変だ!!それともアレか!?お前等、倦怠期な夫婦喧嘩
とか言うんじゃねェだろな!?むしろ言うなよ!勘弁しろよ!!!」
 「夫婦ってあのなァ。誰が旦那で誰が奥さんだよ…」
 「お前。」
 タバコに紛れて疑問符を浮かべる男へ、隣の緑頭はまっすぐ指差す。
 「…何が?」
 「奥さん。」
 「ざけんな、マリモ。」
 近距離で腹巻の辺りへ蹴りが入る。踏ん張って耐えたゾロは、ぎろりと横の
コックを睨んだ。
 「テメェ、この暴力妻が…」
 「奥さんじゃねェつってんだろ、このクソ旦那。」
 「俺が旦那なら、やっぱテメ…」
 「うオイっ!またケンカか!?どっちがどうでもこの際関係ねェから!!だ
から聞けって!!俺の話!!!」
 突っ込んだり怒鳴ったり忙しい長鼻は、息を整えるよう溜息を漏らした。
 「…もっぺん聞くけどよ、お前等恋人同士なんだよな?」
 3人の間に数秒の沈黙。そしてコック達は一緒に口を開いた。
 「当たり前だ。」
 「勿論だ!俺達ァ、らぶらぶだぜ!?」
 一人はふんぞり返り、もう一人は爽やかな顔で人差し指をぐっと立てる。
 げんなり顔のウソップは「そんなツラでらぶらぶとか言うな」と取り敢えず
返す。それから天を仰いだが、手には木材があるので茶色の木目しか目に入ら
なかった。
 「なら何で、こんな日までケンカしてんだよ…」
 コックがはた、とウソップの言葉に思い出す。腰元にはギャルソンタイプの
エプロンが目に入る。
 こんな日…ゾロの誕生日という事で腕を揮っていた筈が、そんなのお構い無
しでやって来た当人と些細な事で喧嘩をして今に至る。
 「誕生日だってのにムードもヘッタクレもねぇじゃねェかよ。」
 「…俺等のムーディな姿を見てェのか?」
 「断じて違〜〜〜〜う!!」
 「悪趣味なヤツだな、お前も。」
 「違うつってんだろ!?!」
 二人のちぐはぐな返答に、本日数え切れぬほど喚いた「聞けよ!」を叫ぶ。
 「らぶらぶなら、ケンカすんなよ。船壊すまで、毎日ケンカすんなよぅ。」
 毎回修繕する俺の身にもなってくれ、と言うのがウソップの言い分だったが
肝心の部分は聞いていなかった。
 大人しくなった二人に、言いたい事は述べた男はついでに説教を垂れる。
 「好きならそんなにいがみ合ってないで、もっと歩み寄ってだなぁ…ん?」
 先刻から変わらず威張り構える剣士と、気難しい顔のコックが見える。ゾロ
はともかく、サンジの様子に狙撃手が声を掛けた。
 「おい、どうした。サン…」
 喋り終わる前に、船の前方の海面で爆風が上がった。揺れと物音に混じって、
手摺の一部が崩れた。
 「コラァァァ?!言ってる側からコレか!?だからあれ程壊すなつって…」
 「や、俺等じゃねェし。」
 「お、敵襲か。」
 「ほゲェェェェ〜〜〜!?!?!」
 呑気な声が二つ、それから悲鳴がメリー号の前方で上がる。ラウンジからは、
パーティの準備をしていた他のメンバーが飛び出してきた。




 左右から飛び掛る海賊へ蹴りを飛ばし、コックは広大な海原を振り返った。
 「お〜…メリーが見えなくなっちまったよ。」
 「余所見すんな。」
 近くで新たな敵が薙ぎ倒されたかと思うと、サンジの後ろに剣士が立つ。海
賊の敵襲から30分、ここは敵船のど真ん中。
 メリーに近付いた海賊船に、船長を筆頭に剣士とコックが乗り込んだ。とこ
ろがこの敵達は、メリーに乗り込みもせず彼らを乗せたまま走り出した。
 敵の雑魚が言う事から察するに、「拉致人質作戦」と言うものらしい。主要
戦力と思われる相手を船に捕らえて、後から追うクルーに多大な金を交換条件
に引き渡すというとても姑息で、遠回しな作戦である。
 他の海賊船なら通用するかもしれないが、麦わらの船においては有効と言い
難かった。「腹減った!!」と喚いて暴れる船長と、喧嘩途中な剣士やコック
が大暴れではもはや無意味だった。
 「さっきからぼーっとしてんじゃねェ。」
 「ぼーって、普段のテメェと一緒にすんな。考え事を整理してたんだからよ。」
 「アァ?!」
 高い金属音と、凄む様な剣士の声。三刀流の剣技は重音を響かせ、ゾロは背
後のコックに視線を向ける。
 「鼻が言ってたろ。仮にも恋人なら、何でそんなに喧嘩すんだ?とかよ。一
理あんなァって。」
 「ずっと考え込んでやがると思や、んな事か…」
 呆れ声が不満そうに吐くと、コックの蹴り返した手下が目の前に落下した。
 「オイ!!こっち飛ばすな!!」
 「んな事じゃねェよ。重要だろが。で、考えた。確かにスイートな恋人同士
ってのは、仲睦まじく想い想われ認め合ってる訳だよな。」
 「飛ばすなつってんだろ!!」
 「ところがどうだ?俺達ときたら、顔を合わせりゃ言葉と力で喧嘩三昧だ。」
 サンジは喋ったまま、ついでに敵への足技も言葉以上に素早く繰り出してい
る。それを喰らった海賊達は、バタバタと将棋倒しになって行く。
 「そこで俺は仮定した。喧嘩のねェ平穏な毎日…俺とお前が日々笑顔で?ぞ
っとしちまったね!」
 「自分で想像しといて、その言い草か。」
 「まァ、それははなから無理な話だな。で、笑顔はその辺に置いといて、例
えば喧嘩をしねェ毎日を俺等が過ごしたとする。で、気付いたんだ。」
 「あー?」
 「テメェと向かい合ってるってのに、なんて刺激のねェ…つまんねェ日々だ
ろなって。」
 ゾロの剣圧に、残っていた男達が海へ投げ出される。後方で最後の敵を掃い、
サンジの視界も一気に開けた。武器を仕舞い剣士が振り返れば、同じように振
り向く蒼の瞳が笑っていた。
 「…確かに、その点は同感かもな。」
 「な?」
 船の反対から、二人を呼ぶ船長の声が届いてくる。帰還準備の声に、二人は
一緒に短い返事を返した。
 「結論はこうだ。手段は喧嘩ってヤツだが、つまりはそれが俺等のコミュニ
ケーション…ま、愛情表現ってヤツだな。」
 「愛情表現か…」
 「あァ、面を合わすと鬱陶しい事この上ねェが。けど、」
 「鬱陶しいって、お前な…」
 「罵り合いながら図太いテメェの面見んのは、案外気にいってるらしい。」
 静まり返る甲板を一足先に出て、コックは付け加えた。
 「らしいって他人事かよ…」
 「鬱陶しい存在だけど、近くにねェと物足りない訳だ。」
 「・・・・・・・」
 「あ、ついでに言っとく。」
 足を止めた人は、ポケットに手を突っ込んだまま静かな声で言う。
 「テメェは鬱陶しいが、今日まで図太くしっかり成長して何よりだ。ハッピー
バースデー、クソダーリン。」
 暫く無言の人は、再び歩き出した細身の背中をぼんやり見つめる。
 「…ついでって言うな。」
 「恋人から、言って貰えるだけ有難いと思いやがれ。」
 歩く度に揺れる金の髪を再び眺め、ゾロは微妙な面持ちで口を開いた。
 「お前、毎年この時期になるとやたらこうして喧嘩吹っかけてくんのは…照
れ隠しか。」
 「あ、アホぬかせ!?!」
 血相を変えた男は、バカ言うなと飛び掛りそうな勢いで捲くし立てる。その
反応を見ていた剣士はあっという間にサンジへ近付き、頭をがっちり捕まえた。
 「そんじゃ、」
 「んなっ!?な、何しやが…」
 抵抗しようと蹴りを入れる足を避け、首を掴んで一緒に歩き出す。罵倒の声
にも怯まず、剣士はにやにや笑う。
 「喧嘩も憎まれ口も大目に見てやっから、帰ったらきっちり愛して貰おうか。」
 「ンだとォ!?!?!」
 戻ってきた船長の声さえ掻き消し、二人の遣り取りはスタートに戻る。
 相も変わらず、そして愛は変わらず。


            END



『アオニサイ。』めいれん様よりいただいてまいりマシた〜v
人の話を聞かない二人(笑)
そしてウソップトークが楽しいデスv
喧嘩=刺激。
うんうん、そうデスよねっメリハリメリハリ〜♪
ムーディーな彼ら、ちょっと見たい気が致しマス(笑)
ラストの「変わらず」がとっても素敵vvv
けど「暴力妻」って(爆笑)
めいれん様ありがとうございマシたv


→2005ゾロ誕
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