Four Seasons





誕生パーティを終えた甲板では、2つの影が残っている。
 「ほらよ。」
 本日主役の男に、透きガラスの小さな器が渡された。祝いの日だと強調するよ
う、グラスの中には彼の最も好む酒が注がれている。
 「・・・・・・・」
 続けてコックが摘みを前に広げている。目の前のグラス、そしてコックを見比
べた剣士は真顔で口を開いた。
 「オイ。」
 「?・・・・」
 「グラスにでけェゴミ入れたか?」
 皿を持つ手が止まり、顔を上げたコックの口元からタバコの灰がぼとりと落ち
た。数秒の静止、そして思い出したよう皿を置いた男は、静かに剣士の腰へ蹴り
を喰らわす。
 不意打ちで衝撃は相当な筈が、好物を一滴も零さないのは酒豪の鑑と言うべき
なのか。慌てて器を握り直す男が、低く唸って正面を睨んだ。
 「テメっ!?さり気に蹴ってんじゃねぇよ!?」
 「イヤ、蹴るだろ。ここは。」
 「何でだ!?」
 「蹴られる事を言っといて、心当たりがねェのかよ。アホめ。」
 反対にコックが腰を下ろす。
 アァ!?と怪訝そうな男に、加害者は呆れたように言った。
 「…もうお前、ホント台無し。この能無し。」
 「待て。前後の話が解るよう喋れ、お前。」
 相手へツッコミを入れ、はたとしてゾロが声を荒げた。
 「誰が能無しだ!?テメェェェ!?!?!」
 「いや、おせーよ。」
 溜息を吐いてサンジは自分の器を手にする。彼のグラスにも、何かが見える。
小指よりももっと小さな欠片。彼等の器の中、それは浮かんでいた。



 ゾロの目の前で、相手はグラスを嗅ぐような仕草を見せる。それから満足そう
に、頷いた。
 「やっぱ時間置いてっから、いい具合だな。」
 「おい?」
 「そいつがゴミかどうか、よく見やがれ。この老眼剣士。」
 言われるままにゾロも、同じポーズをとってみる。そうして気付いた彼は、顔
を上げた。
 「…匂うな。」
 「そりゃそうだ。菊花酒なんだからよ。」
 「きっか…?」
 グラスを眺め、欠片の正体を理解する。ライトイエローの細長い、欠片。ゴミ
ではなく、小さな花びらが浮かんでいた。
 「先にグラスへ出して、こいつを浮かべとくんだ。そうすっと、酒に香りが広
がんだぜ。」
 楽しそうなコックは、そう言って口をつける。
 「飲みゃ一緒なのに、ご苦労なこっ…」
 「蹴るぞ、アホ剣士。」
 「蹴ってから言うな!!」
 胡坐をかいていた筈の足は、ゾロの脛にヒットしている。怒鳴られてもいつも
通りの男は、静かに足を引っ込めた。
 「これ位で勘弁してやるよ。何せ今日は、てめぇのバースデーだし?」
 「これ位つって、いつもとかわんねェだろ。」
 そうだっけ?とコックが軽く笑い飛ばしている。彼が一口飲んだ時、グラスを
凝視しているゾロが見えた。
 「何だよ?好物だろ…飲まねェのか??」
 「いや、飲むが。」
 「??」
 「そういや、春は桜を入れてたな。」
 「おう!テメーでも覚えてんの?アルコールでやられてるふやふやのマリモ脳
なのに、偉いですね〜。」
 「斬るぞ、殺すぞ。お前…」
 「あ、悪ィな。失言、失言。」
 「ちっとも悪そうに聞こえねぇが。」
 気に入らぬ物言いではあれど、目の前の好物が気分を中和してくれる。気を取
り直し、剣士は花びらの揺らぐ酒を堪能することにした。



 「ほんのり香るトコや、色合いがまたいいだろ?」
 先に飲んでいた人物が、問い掛けてくる。明るい声音、余りの無邪気さにゾロ
は疑問を口にしていた。
 「ここは陸じゃなく、船の上だってのにこだわるな。」
 「何が?」
 「季節だ。」
 ほのかに香るそれを見つめる。
 桜酒を飲んだ春、向日葵の種で作られた摘みを味わった夏。真冬の寒さを払っ
た、柚子茶。そうして、秋を楽しむ菊花酒。
 今更ながら気付いた事。これまでコックの出してきた物に、季節があった事を。
 「船に居るからこそ、じゃねェか。」
 「?・・・・・」
 顔を上げれば、当然と言いたげなサンジの顔がある。
 「どこに向かうか解らねェ先々なんだ。勿論、航海をする上で今がいつだって
暦はあるが…海の上で必ずしも季節が同じかっつーと違うだろ?」
 「そりゃそうだが。」
 「だからこそ、必要なんじゃねェか。」
 ―― 海の上だからこそ、忘れちまわねェように。
 そうして彼は、青い目を細めグラスを空にする。
 「…不思議なもんだ。」
 ―― 世界一を目指し、陸を離れた場所に居るってのに。
 「んー?」
 ―― 俺の側に、いつも季節があるなんてな。
 ゾロの呟きの側。コックはもぞもぞしていたかと思えば、口先に残った欠片を
咥えてにいっと笑い出す。唇に薄く、細長い欠片が光って映る。
 ―― こいつが居る限り、どこでも四季がある。
 「そういうのは、悪くねぇ。」
 「何か言ったかー?」
 「おい、そいつは食えるのか。」
 「おう!もちろ…」

 答えを言い終わる前に、問いかけた男が顔を近付けてくる。やけに笑っている
なとサンジが凝視していると、相手は芳香の漂う欠片ごと口付けそれを飲み込ん
だ。


END






『アオニサイ。』めいれん様よりいただいてまいりマシた〜vvv
ってかゴミて(爆笑)
台無し能無しゆわれてる旦那が素敵デスv
そしてサンちゃんの拘りどころがもぉ…

船の上だからこその拘り。
細やかなその配慮が素敵デスv
旦那はいつでも季節を感じる事が出来るんデスねっ!
めいれん様ありがとうございマシたv



→2005ゾロ誕
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