「なぁところでこのマツタケとやらを摂ってどうすんだ。」
錆びた鍋らしきものに水を汲んで戻ったコックへと質問すると
「はぁ?!」
何を今更という顔をされた。
ゾロは手に持ったままの袋の中を覗き込む。
いち、に…さん…今のところ七本。
「テメェ…ナミさんの話聞いてなかったのか。」
「途中で飽きた。」
「…」
らしいと言うかなんと言うか。
呆れて溜息を吐く。
「あ〜…だからだな、このマツタケってのは生える場所選ぶンだよ。いい香りでウマイんだが摂れる量が少ねぇんだ。」
わざわざ説明してやったのに、剣士の顔にはだから?と書いてあった。
「クッソ頭悪ぃなテメェはっ!!高く売れんだよっっ!!」
「食うんじゃねぇのか。」
「食わねぇよ!!ば、い、きゃ、く!!」
そんなやりとりの間も、彼の手は忙しなく働く。
摘んで来た山菜や茸を洗い、どこからともなく引っ張り出した別の鍋に移すという作業を繰り返していた。
「食わねぇのか…」
ちょっと味見してみたかった剣士の残念そうな呟きを他所に、彼は石壁にはめ込まれた四十センチ四方の鉄のカバーをじっと見詰める。
それをひょいと取り外し中を確認した。
「懐かしいな〜…これ窯か?…オイ毬藻。外で薪探して来いよ。」
窯があるって事は置いてる可能性がある。
それにしたって随分な言い草だ。
「アァ?!何偉そうに命令してやがる!!なんでオレがんなもん探さなきゃなんねんだ!」
そりゃあカチンとも来るだろう。
だがコックはおかまいなし。
「うめぇもん、食わしてやっからさ!!」
懐かしいものに出会えた上、材料に恵まれた事で上機嫌。
にっこり笑った。
船で剣士にこんな笑顔を向けた事があったろうか。
いやない。
それに負けたゾロは文句を言おうと開きかけた口を閉じ、おとなしく薪を探しに外へ出た。
「なんだありゃ…」
初めて自身へと向けられたそれに少々動揺。
ここで迷うと船にさえ戻れないだろうと予測した剣士は小屋付近で薪を探す事にした。

「おいコック。倒れたデカイ木はあったが薪なんてねぇぞ。」
暫く探し、見当たらずで戻った剣士が声を掛けると
「デカイ木あんのか。」
シンクに向かったまま振り向きもしないサンジは淡々と言った。
「ああ。あるな。」
「んじゃテメェそれ薪状にしろ。」
倒れてるってこたぁちっとくらい乾いてんだろ。
いけるいける。
「は?」
「薪くらい分かんだろが。」
薪が分からなくて聞き返したわけではない。
何故自分がそれを用意せねばならんのか。
聞きたいのはそこんとこだ。
「ぼさっとしてねぇで早く用意しろ!」
窯の調子を見ていたコックが急いでいるだろう事は分かる。
分かる、が、だからと言ってこんな扱いをうける必要はどこにあるのか。
反論の余地もなく外へと蹴り出されたのだ。
あまりの事にイラつき出したゾロは言いつけ(?)を放置しドカドカと中へ入った。
「おいグル眉!!テメェどういうつもりだ!!!」
お怒りMAXにてすごんで言ってみたのだが、振り返った彼にへにゃりと体の力が抜ける。
満面の笑み。
今ではあまりお目にかかる事のない窯が嬉しくて仕方ないのだろう。
「終わったか?」
そんな顔でそんな事を言われちゃあ、文句も何もすっ飛ぶってもんで。
「いや…ちょっと休憩…をだな…」
大剣豪がそんなでいいのか。
引き下がったゾロは言われるがままに倒れた木を引きずって来て薪状にした。

コックは用意した薪を炎にくべながら窯の様子を見ている。
ゾロにはよく分からなかったが温度の加減やらがあるのだろう。
真剣な横顔をじっと黙って見詰め、こうやって黙ってりゃあ…なんてなんだかおかしな事を考えた。
いやいやと首を横に振り
「何考えてんだ…」
呟く。
思わず口から出てしまった言葉に顔を上げたサンジは
「何か言ったか?」
意識を向けてみたが答える様子のない男に小首をかしげ、再度問いかける。
「何を、考えたって?」
聞こえちまってたんじゃねぇかと舌打ち。
「おい?」
促してみるがゾロはそれでも答えない。
答えられない。
あんな風に思ってしまった事を、どう説明出来ようか。
それ以上の追求を諦めたサンジはおもむろに、釜の中からちいさな包みを取り出した。
「おし、こんなもんだろ。」
大きめの葉っぱでくるんだソレの匂いをくんとかぎ、隙間を開けて中を確認したかと思うとゾロに差し出す。
「ん。熱ぃからな、気ぃつけろよ。」
いきなり目の前に突き出されたソレを思わずホイと受け取った。
「…なんだこれ。」
今この時点ではただのしなびたデカい葉っぱを何枚も重ね、折りたたんでいるようにしか見えない。
「ん?マツタケ。」
サンジは簡単にそう答えると、小型のナイフを取り出し葉っぱを裂いてみせた。
立ち昇る湯気と、食欲をそそる香り。
ニッと笑ってタバコを取り出し口に咥える。
が、火をつける様子はない。
その事が気に掛かり、手を止めたままで見詰めると気付いた彼はその答えを寄越した。
「早く食え。待ってやってんだろが。」
今火ぃつけると香りが台無しだろ?
得意気に笑う目元になるほどと頷く。
では早速と口に入れかけふと手を止めた。
「…ナミにどやされんぞ。」
いいのか?
摂って来いと言われているのに食ってしまっては金にならない。
珍しくサンジの立場を考え言ってみた事なのだが当の本人は
「う〜ん…まぁ、黙ってりゃあ、な。」
なんて、航海士に隠し事など珍しい。
「どういう風の吹き回しだ。」
普段の様子と本日の仕打ち(?)を考えるとそりゃあ疑問だろう。
一瞥でしまいかと思ったが
「テメェも頑張ったし、せっかく誕生日なわけだしな…ま、ご褒美って事で。」
答え、照れたように右下を向いたかと思うと長い前髪で表情を隠してしまう。

『あ、今どんな顔してやがるのか見てぇな。』
『今日が誕生日だなんて、コイツに言ったろうか。』

そんな事を考えながら、いい香りのするそれらをガサッと口へかっこむ。
せっかくだ。
冷めてしまってはもったいない。
言った通り熱かったが、口の中に広がる香りと食感に数時間前のささくれた気分などすっかり忘れた。
「ウマイ…」
無意識にぽつり。
コックはまだ紅潮の残る目元を更に染め
「当たりめぇだ!!」
言い捨てると次の山菜を焼く為窯に向かってしまった。
手渡された包みはひとつだけ。
当然のごとく自分の分はない。
ゾロだけが、『特別』。
「テメェは食わねぇのか」と言いかけてやめた。
せっかくの配慮に水を差す事もない。
日付限定の独り占め。
あっと言う間でおいしくいただき両手を合わせた。
「ごっそさん。」

通りすがりの小屋で腹を満たした二人は再度「マツタケ狩り」に出発し、夕刻に自船へと戻った。

「どう?沢山あった?」
真っ先に駆け寄ったナミに途中で食した事がバレなかったかと言うと、ちゃあんとバレた。
手渡す際、ゾロがぽろりと感想を言ってしまったのだ。
「ウマイもんだな。高ぇのも分かる。」
なんて。
「あっ、何言ってやがるこのヤロウ?!」
長い指が慌てて口を押さえるがもう遅い。
与えたサンジと食ったゾロは共に鉄拳制裁をくらった。

この日以降、互いに交わす視線の意味はほんの少し、カタチを変える。





end





「コックの尻に敷かれる旦那」と言うお題を友人にいただき(ありがとうv)書いてみマシた。
まだデキてないのにすでに敷かれる旦那(笑)
後々旦那の方がコックをある意味敷いちゃったりしてるんデスがまぁソコは置いときまショう。
それにしてもこの話のコック、いつもよりちょっとひどいデスね(笑)


→2005ゾロ誕
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