『月と酒と旨い飯と……ひとつサービス足んねえぞ?』



十一月十一日。
うまい具合にその日は満月だった。

「良かったなゾロ。雲もねぇし、月がキレイだぞ!!」
嬉しそうに空を見上げた青っ鼻のトナカイは隣を歩く緑の腹巻に視線を移動した。
欠伸をしもってそこへと片手をつっこんだ男は
「だな…月見酒といくか。」
言いながら、撫でるように彼の帽子に触れる。
「えっ!まだ飲むのか?!」
午後から始めたバースデイパーティーと称するところの宴会はついさっきまで続けられていた。
すっかり潰れた船長はもう食えねぇ〜とふくれた腹をさすりもって甲板に転がる。
彼が食べられないなんて事態、無いに等しいのだがそれはさておき安心しろ。
これ以上誰も何も勧めない。
その隣では長っ鼻の狙撃手が転がり、樽を抱えてうんうん唸っている。
何のつもりか。
いつも最後まで飲んでいる航海士は流石にもう無理と珍しく赤い顔で部屋へと戻った。
それでも彼女が引き上げたのはほぼ終盤だったが。
途中まで楽しげに船医と会話していた考古学者はいつの間にやらスッと引き上げ部屋へ戻ったらしい。
読みかけの本が気になったと思われる。
コックはキッチンで最後の大仕事中。
ほおっておいても物語のように小人は現れないし、誰も片付けてはくれない。
と言うよりも彼が断ってしまうのだ。
フラフラながらに片付けを手伝うと申し出た狙撃手を、いいから休んでろとキッチンからやんわり追い出した。
まだちょっとフラつくこの船医も例外ではなく、同じように。
そして本日の主役はと言うとこの通り。
キッチンから戻った彼と一緒に部屋へと休みに向かうところ…
だった。
はっきり言って剣士は最初から最後まで飲んでいた。
そりゃあもう酒樽の横を陣取って、動かなかった。
今日は文句を言って蹴り飛ばすはずの人間も黙っていてくれたからだ。
出された料理は醤油ベースの味付けが多く好みの内容。
旨いと口にする事はなくとも、自然上機嫌。
食もすすむめば酒もよけいにすすむってもんで、一体どれほどの量を飲んだというのか。
チョッパーの驚きにも納得がいく。
「いい加減にしとかないとホントに肝臓やられるぞ?!」
肝臓壊すといろいろ大変だぞ?
ちょっと舌足らずにだが自重を促してみた。
「んなヤワに出来てねぇよ。」
が、即返ったのはそんな返事。
ヤワとかそういう問題なのだろうか。
しかしいい具合に酔っ払っている船医は眠気に勝てず、一気に思考能力を低下させる。
その口からは
「ふぅん…」
なんて適当な相槌が零れ落ちて消えた。
ゆっくり膝を折り、その場に座り込んだ頭がカクンと垂れる。
「…寝るのか?こんなとこで、風邪引くぞ。」
小さく笑ったゾロは彼を抱え上げ部屋へと連れて行った。

「…足りねぇ。」
船医を部屋へ送り届け一息ついたゾロは船首にもたれ、座り込みながら不服そうに呟く。
「何が。」
少し離れた位置、同じように座り込み一服する片づけを終えたサンジはそれを拾って問いかけた。
ちょっと前までこの場所に転がっていたルフィとウソップは彼が部屋へほおり込んだようだ。
今この場所に、宴会、いや祝いの名残はない。
むうと眉を寄せた剣士はまるで睨みつけるように月を見上げる。
せっかくの満月が台無しである。
「月が綺麗で海も凪いでる。いい夜じゃねぇか。何が不足だ?」
ほおった言葉はそのまま夜の海へと吸い込まれ、受け取るはずの男は照らす頭上を見詰めたまま。
何かを思案するように。
その空気が耐え難くて、サンジは無理矢理に言葉を繋いだ。
「あっ、イイ酒か?ちゃんと用意してあんぜ?」
どこからともなく取り出され、ゴトンと目の前に置かれた一升瓶。
ソレは剣士が好んで飲むが高くて頻繁には購入出来ない。
そんな酒だった。
用意してあったんなら何でもっと早く出さねぇんだとブツブツ言いつつもちゃっかり受け取る。
「これはこれでありがてぇが…違う。」
重い一升瓶を片手でひょいと持ち上げて傾けジョッキに注いだ。
飲み方間違っている感はあるが、まぁそこは気にしてはいけない。
ビジュアルにもこだわりのあるサンジ的には陶器の杯を用意してやりたいところだったが一瞬考えてやめた。
激しく無駄だ。
注いだだけマシで、ヘタをすれば一升瓶のままである。
情緒もへったくれもねぇなぁと溜息を吐きつつ
「じゃあなんだよ?あっ、つまみか?オレ様にぬかりはねぇぜ!!」
勝手に話を進める。
ほぉらとまたもやどこからともなく手元に現れたトレイ。
その上にはちいさな皿。
「なんだそれ。」
そこからはまだ湯気が立ちのぼる。
ついさっき作ったばかりなのだろう。
「太めのもやしをサッと湯にとおして細かく裂いた鶏肉とあえてあんだ。味付けは醤油とマヨネーズ、みりんと胡麻。あ、辛い方が良けりゃ一味、持ってくんぜ?」
ゾロは立ち上がろうとしたコックを引きとめそれを受け取った。
「いや、このままでいい。」
添えてあった箸を手に取り口へ運ぶ。
シャキシャキと歯ざわりが良くて気に入ったのか、あっと言う間に平らげてしまった。
はたしてこの男、つまみの意味を分かっているのだろうか。
ごっそさんと両手を合わせ、箸を置くとおもむろに。
「…足んねぇ。」
食ったばかりでのその台詞にわけの分からないサンジは再度問いかける。
「だから何が。」
つまみか?
追加するか?
剣士がつまみに夢中な間ジョッキを横取りそれを一気に飲み干していた彼は、立ち上がろうとして頭をぐらり揺らした。
それほどに度数の高い酒だもんで。
「いいからこっち来い。」
自らの状態に仕方なし腰を落ち着けつくづくバケモンだと関心していたら、子供を呼び寄せるように手招きされる。
おまけにその声はいつになく穏やか。
「なんで。」
言ってから、『質問ばっかだな』とおかしくなってちょっと笑った。
なんとなく、伺うように目をやってみたがゾロはそれ以上何も言わず黙ったまま。
まぁ今日くらいは従ってやるかと四つん這いにてずりずり近付く。
すぐ目の前に辿りつくと膝立ちになり緑の頭を見下ろした。
それでも剣士は黙ったまま。
ぼんやりと、目の前の彼を見上げる。
「なんだよオマエ。酔ってんのか?」
そんなわけがない。
普段、喉を通ったはずの酒は臓器へ届かず何処かへ消える仕組みかと思うほどの平然っぷりだ。
だがそうとしか思えない今現在の『行動』に念の為確認した。
「こんくらいで酔うわけねぇだろ。酔ってんのはテメェの方だろうが。」
けれど返ったのは予測通りの言葉。
ではこれをどう説明するのか。 
「だったらこの手はなんなんだ!!」
さっきから大きな掌はコックの腰に回されている。
答えないままちょいと力を込め引き寄せ、確かめるようにその身に鼻先を着けた。
「…タバコ臭ぇ。」
今言うべき事はそれじゃあない。

それじゃあ、ない。

「オマエさぁ…こういう事は、言うべき事言ってからじゃねぇのか?」
何も告げずにいきなり行動とはけしからん。
サンジは眉間に皺を寄せた。
「んだよ。いちいち口にしねぇでもあんだけ見てりゃ分かんだろ普通。」
同じように眉間に皺を寄せた男は不満気に告げる。
そりゃあ普段の船上、あれだけ視線で追っかけまわしていれば。
「まぁ…なぁ…知ってたけどよ。」
確かに分かりやすかった。
もちろん自分も分かりやすかったろうとは思う。
自覚有り。
それを思うといちいちうんぬんは一理ある。
が。
「じゃあいいだろ。」
だからって全てすっ飛ばしていいかってぇとそうではない。
「って何が?!」
だいたい何がどういいのか。
言わなくてもって事だろうか?
だとしてこの手はなんだ。
そこんとこ詳しく説明していただきたい。
しかしゾロは回した腕をそのままに
「何が悪ぃんだ。」
さらっと、言った。
一体何の回答だろうか。
会話になっているようでなっていない。
「あのぅ…もしも〜し?脳味噌どっかへお出掛けですかぁ〜?」
オレの言ってる事、理解してますかぁ〜?
何がいいのかって聞きましたよねぇ〜?
まず聞いた事に答えましょうねぇ〜。
サンジはココンとリズミカルに剣士の頭をノックする。
ムッと眉間の皺を深くした緑頭は
「いちいちカンに障る事ばっかしやがって…っ!!」
ガッと目の前にぶら下がるネクタイを掴んだ。
コックは驚いて身を引きかけるが掴まれたそれが身体を離す事を許さない。
殴られるか?
思った瞬間間近く迫った言葉よりいっそう、辛辣な瞳。

不意を突いて掠め取られた唇は僅かな温もりを残してすぐに離れた。

「テッ、メェ何勝手に…っ!!」
サンジは左手で口元を押さえながら飛び退く。
「とりあえず、黙らした。」
何で勝手にと尋ねているのに随分なお返事。
さっきからちっとも会話になりゃしない。
その上
「今日はいろいろ特別なんだろ?もっとサービスしろ。」
なんて了解も得ず勝手な事をしておいて、ふてぶてしいったらない。
「…なんかオマエ誕生日の意味穿き違えてねぇか。」
呆れ、溜息まじりに呟かれた男は
「じゃあくれ。」
これであってるだろう。
得意げに手を差し伸べる。
掌をいっぱいに開き、ちょうだいする子供のように。
いやあってます。
あっているけれども何を寄越せと言うのかこの男は。
けれど何より問題なのはそんな態度の相手に対して『何か』を、差し出してしまおうかと考えている自身。
無言のまま見詰め、ゆっくりと手を伸ばす。
再度顔を寄せた瞬間。
「オマエらまだ起きてたのか?何してんだ?」
かけられた声にギョッとして振り返ると声の主が立っていた。
ちいさな、黒い影。
「チョチョチョチョッパー?!」  
…何時から?!
「改名したのか?」
コックの肩越しにひょいと顔を出したゾロは当人に尋ねた。
「オレそんな長い名前じゃねぇぞ?」
誰もそんな話はしていない。
「うっせぇ!!何だよオマエら揃って!こりゃあ動揺をだなぁ…」
あわあわと離れる痩身へ、名残惜しげに手を伸ばすが届かず。
「動揺って、何でだ?」
分かっているのかいないのか。
キョトンと見詰めるつぶらな瞳に居たたまれなくなったサンジは先ほどまでとんでもなく近い距離にいた男に向かって
「う…っ…クソして寝やがれっっ!!」
なんだか捨て台詞。
怒鳴りつけ、走ってキッチンへ、
逃げた。
何故クソなのか。
疑問に思ったが耳まで真っ赤にした顔が月明かりでハッキリと見えたので、今日はこれくらいで勘弁してやろうかと空を仰ぐ。
「…ちょっと足んねぇ気もするが、まぁイイ誕生日だ。」
ジョッキに少し残った酒を一気にあおり、偉そうに呟いたゾロは寝るかと立ち尽くす影に声をかける。
まだ少し寝ぼけ気味のチョッパーはひょいと小脇に抱えられた。
「何してたんだ?機嫌良さそうだな、ゾロ。」
彼の見上げた先、半開きの眼のぼんやりな視界には上がった口角。
「まぁな。」
キッチンに灯りがともるのを見届け、クッと小さく笑う。
おとなしく引き上げてやるよ。
今日はな。

「深追いするまでもねぇし。」





end





タイトル素敵なのに…なのに…(ありがとうございマスvvv)
ワタクシがいただきマスとこんな事態に〜(汗)
い、祝う気は満々デス!!
でも「おめでとう」言ってない?!←え?
素敵企画に参加させていただきありがとうございマスvvv

追記 ◆11/20◆
今頃ではありマスが、DLFとさせていただきマス〜
駄文ではございマスがよろしければ…
って日にちないがな(汗)
すす、すいません〜

※DLF期間終了致しました〜

【凌駕煩悩乱レ咲キ】様へ
拙宅index

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