「カモメ便、使ったのか?」

「お願いね〜!!」
と手を振ったナミの背後からかけられた声。
振り返るとそこには彼女の『伴侶』が立っていた。





letter






「あら、見られちゃった。」
瞳には優しい笑み。
台詞に反して隠れた様子など少しも。
「何送ったんだ?」
まぁ想像はつくけどなとさして興味なさそうに、それでも問うてみる。
昔と変わらず、麦わら帽子をかぶった船長は船の縁によっ、と飛び乗り腰掛けた。
『彼ら』が船を降りて三年経った今も、瞳には少年の匂いを残す。
きっと何年経とうとそれは変わらないのだろうが。
「ん?サンジ君にちょっと手紙を、ね。」
お見通しな彼に今更もったいぶる必要もなくて、素直にそう答えると
「ははっ、やっぱりな。オマエがあんな顔して出すもんなんて、それっくらいだろ。」
笑われた。
「そうかもしれないわね。」
ナミも笑う。
だって他に想うような人間はみんな傍にいて。
ビビは立派にアラバスタの王女として国を治めているし、姉であるノジコやゲンさんは今もココヤシ村で元気にしている。
チョッパーは相変わらずこの船の医者として傍にいるし、ウソップも同じく一緒に旅をしている。
そのウソップが村を出てから随分丈夫になったカヤは、旅を続けると告げに戻った彼について来てしまった。
最初は船に慣れなかった彼女も今では元気にチョッパーの助手をしている。
ウソップを待つ間、ちゃあんと医療の勉強をしたそうだ。
病弱だったお嬢様とは思えない見上げた根性。
大切だと想う仲間や関わった人々はそうやってみんな、会いたい時に会えるところに。
所在が知れないのは『彼ら』だけ。
船を降りた料理人と、それについて行くと言った大剣豪。
オールブルーを見つけたサンジは船を降り、そこで店を持つと決めた。
それを皆の前で告げた夜、ゾロも考えて決めたようだ。
彼と一緒に行く事を。
二人とも、ずっと共に危機を乗り越えて来た仲間だ。
ウソップもチョッパーも泣いたし、もちろんナミも泣いた。
船長だけが、静かに頷いた。

「そういやアイツら今何処にいんだ?手紙出したって事は、分かんのか?」
その時の事を思い出す彼女の肩に、ポンと置かれた温かい手。
その手と逆の手は肩に担いだ我が子に添えられている。
彼の麦わらに隠れてよく見えなかったのだが、肩越しにはようやく生え揃ってきた黒髪。
「ちょっ?!何無造作に担いでンのよっ!!」
ルフィが子連れである事にようやく気付いた母親は慌てて引き受けようと両手を伸ばした。
が、
「よく寝てる。大丈夫だ。」
ニッと笑う彼に腕を止め確認。
確かに我が子はよく眠っているようだ。
「呆れた…どういう神経してんのかしら。」
あんな体制、しかもベッドは温かいにしろじっとしてはいない。
上下左右に揺れるわ騒ぐわ大変だ。
「だなぁ。誰に似たんだか。」
呑気に答えるベッド、もとい船長。
妻はすかさずツッコんだ。
「アンタに決まってんでしょ!!」
ルフィはそれをあははそっかと笑って流し、話を戻す。
「なぁ、アイツら何処にいるんだ?」
出された手紙の届け先を、知りたくて仕方がないようだ。
知っていようものなら今すぐにでもこの海上から駆けつけそうな勢い。
知っていようものなら、だが。
「分かんないわよッ!!分かんないけど…賭けに出てみたの。もしかしたら届くかもしれないでしょ?黙って待ってるのは、もうヤなの。」
まったく酷い話である。
何処に店を持ったかくらい、教えてくれたっていいものを。
サンジは船長含め、仲の良かったナミにさえ店の場所を教えなかったのだ。
その上それから音信不通。
自分の居場所を告げる事。
それはきっと船の足止めになると思っての事だろう。
彼の考えそうなそこんとこ、分からないでもないのだがせめて、元気でいる事くらいはと。
けれど今の自分の状況を考えると彼らには感謝するべき部分があるのかもしれないと、そうも思う。

それは彼らが船を降りると決め、告げた翌日の事だった。

「アイツ、やっと決めたみてぇだなぁ…」
主が不在時のキッチン。
頬杖をつき呟くように言った船長の、テーブルを挟んで正面には本を読む航海士。
「アイツって、サンジ君?」
顔を上げ、聞き返す彼女に彼は何も答えない。
ぼんやりと丸窓から外を眺めるだけだ。
「ねぇ、サンジ君が船を降りるって言った事?」
それを決めた事?
追って尋ねるナミに、ルフィはようやく視線を移した。
「いいや。サンジがいつか降りるだろう事はオールブルーを見つけた時点で分かってた。」
この船長、妙にカンの鋭いところがあっていつも彼女は驚かされる。
コックが船を降りるであろう事を、すでに予測していて
「サンジの事は、寂しくなるけど仕方ねぇと思ってる。」
そう続ける。
誰にも、止める事は出来ないと。
「オレが言ってんのはゾロだ。」
「ゾロ?なんで?」
ナミが首を傾げると同時に返る言葉。
「ん?アイツ迷ってるみてぇだったし、どうすんのかと思ってたからな。これもなんとなく分かってはいたけどな。」
ニッと笑ってみせるがその表情はいつになく暗い。
信頼し、全て共にして来た仲間を同時に二人手放すのかと思えば当然だろう。
しかし自身もそれなりに辛くてなんと言っていいか迷う彼女を他所に、船長はおもむろに立ち上がった。
そして。
「アイツらも決めたし、オレも決めた。」
座ったまま膝の上に本を置くナミの真横に移動して少し見下ろすカタチで。
「嫁になってくんねぇか。」
ハッキリと、言った。
「は?」
何が起こったのかよく分からない。
そんな顔でじっとルフィを見るが、言った本人は何をどうした風もない。
ただじっと、彼女の反応を待った。
が、固まったまま動かなくなってしまったナミによく聞こえなかったのかと念を押す。
「嫁。」
そんな事は何度も言われなくてももう分かった。
彼女の思考停止の理由はソレじゃあない。
何故、いきなり今なのか。
暫し停止後我に返ったナミは思わず
「貧乏はお断りよ!!」
なんて、言ってしまった。

本当はちょっと、待っていたくせに。

大切に想われている事くらいはちゃんと知ってた。
だからこそ、ナミ自身も。
「ははは。」
だがお断りをくらったにも関わらず、船長は笑う。
あまりな言い草だったかと一瞬した反省を返して欲しい。
「笑っっってる場合かッッ!!サンジ君がいなくなってから食糧管理が不十分でホントに貧乏なのよウチはッッ!!!」
分かってんの?!
船長が笑ったのはそこじゃあない。
分かってはいたが、なんだか真っ白でそんな言葉しか出てこなかったのだ。
思うより動揺しているらしい。
「あっ、あの…ね…」
本当に言いたいのはそんな事じゃなくて、けれど何を言っていいかも分からなくて。
けれど俯いた彼女が言いかけると
「そうか。貧乏駄目か。」
ルフィは一度あっさり引き下がった。
「えっ、ちょっ?!何?そんな簡単に…もういいの?」
膝に置いた本をテーブルに上げ、立ち上がりかけたナミを見て彼はニッと笑ってみせる。
やられた。
なんともズルイ事に、思考でなく本能の部分でよく知っているのだ。
逃げられると追いたくなる性分を。
「そっ、そうね、伴侶…だったら考えたげるわ。」
はめられた事に気付き、そんな風に言う彼女に
「ふぅん…それもいいな。オマエらしいし。」
にししと笑う船長。
ぼんやりしているようでいて、ルフィの方が一枚上手だ。
「んじゃ、決まりだな!」
あっさり。
ムードも何もありゃしない。
「で?それだけ?」
ナミだってやっぱり女の子で、ちょっとくらい求めたっていいだろう。
「ん?他になんかあんのか?」
けれど船長はそんな調子。
顔を見合わす互いの頭上にクエスチョンマーク。
じゃあこれからよろしくなっ!と簡単に去りかける背中を慌てて呼び止めた。
「ちょ、ちょっとぉ!!唾くらいつけときなさいよっ!」

だからってソレもどうなのか。
だがルフィは
「いいのか?」
もう『手』を出しても?
振り返り、笑う。
「今更でしょ。」
ナミは呆れたように呟きそれからすぐ、近い未来の『伴侶』に顔を寄せた。

もう少し先になるかと思われたソレは意外と早くに訪れた。
遅かれ早かれそうなったにせよ、結果的に彼らの決断がきっかけになった、と言うわけだ。
その部分は感謝するに値するのではなかろうか。
それからは全てあっ、と言う間。

「ベルメールさんへの報告にココヤシ村に行ったと思ったら、もうこの子がいたのよねぇ。」
なにぶんグランドラインは広いもんで、移動に時間がかかるったらない。
しみじみ呟いたナミの指先が触れるのは先ほどから船長の肩の上、ちっとも目を覚まさない愛しい我が子。
カモメ便で賭けのような手紙を出した日。
「負ける気がしないのよねー。」
と言った妻はそれから半月後、見事勝利した。

「ねぇ見て?元気にしてるか聞いたのに、返事がコレよ?」
そおっと大切に、手紙を開いたナミは爆笑した。
そしてそれを船長へと手渡す。

『娘さんをお嫁に下さい』

なんで分かったのだろうか。
産まれたのが娘だとは一言も言ってない。
おまけに何ひとつ、彼女の問いに答えてなどいなくて。
およそ手紙とは言えない、たったその一行だけの。
「やってたまるかバカッ!」
だいたい、男だったらどうする気なのか。
「まったく…何言ってんだか。アンタが嫁状態でしょうが…」
思い出し、少し寂しくなって溜め息。
鍛える事しか知らないあの剣術バカの世話を焼くのはさぞ大変だろうと思う。
それでも一緒に。
戻ってくれないかな、なんて、考えないと言えば嘘だ。
ナミは空を仰ぎ見た。
「でもちゃあんと手紙が届くんだもん。大丈夫。まだ、繋がってる。」
たった一言、現状を知らせるでなくとんでもない台詞ではあったけれど届いた手紙。
ほんの少しのソレに、満たされるものもある。
手に取る事は出来ないけれど大切なもの。
腕の中で眠るあたたかいものに微笑み髪を、撫でる。

緩やかに動く指先を

それに応えるようちいさな手がぎゅっと握った。





ああこの幸福を、どうしよう。





end





RED様よりいただきマシたリク、「mother」の設定で甘めのルナミ…
なのデスがどうよ?!
すいませんすいません(滝汗)
設定と言うより続編に…
しかも管理人がサンジスト故ドウしても彼らが出張ってしまう上に船長つかみ所なくてムズカシイ〜(号泣)
甘めどころか…どころか…
あわわわわ。←激しく動揺。
すっ、少しでも楽しんでいただけれバ幸いデス〜

最近ナミさん話を書きたいと思っておりマシたので、本人は書いてて楽しかったデスv
RED様、ありがとうございマシたvvv


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