告白。




「珍しいな…」

剣士の視線の先にはテーブルに突っ伏してうたた寝するコック。
遅くまでレシピを書いたり片付けをしたり、夜食を用意したりの上朝誰よりも早く起きる彼の寝姿を目にするのは非常に珍しい。
覗き込み、巻いた眉に影を落とした瞬間その蒼は開かれた。
「…うおっ?!ビビッた!!近ぇよ何してんだ?!」
寝起きはとてもヨロしいようで、ぼんやりな様子は微塵もない。
少々残念に思いつつ
「いや、顔をよく見てぇと思って。」
さらり。
元々隠す気などないゾロはなんの臆面もない。
ハッキリと目的を告げた。
こんな言い方をされれば誰だってあれ?どういう意味だ?くらいは思ってもおかしくない。
カンの鋭い人間ならば向けられる感情にすら気付くだろう。
のに、だ。
「ふぅん…」
なんだろうこの反応は。
どう取っていいのか分からず黙って見詰めているとジロリ、睨みつけられた。
「んだよ。まだ何か用か。」
ただ顔を見る為だけに就寝前立ち寄ったキッチン。
そう問われると用があるとは言えない。
「別に用はねぇが…」
他に答えようもなく、率直にそう告げると
「用もねぇのに来んな。」
なんて冷たいお言葉をいただいてしまった。
そしてふいと逸らされる瞳。
ゾロはそこでようやく気がついた。
この態度は多分、うたた寝を見られた気恥ずかしさのせいだ。
『捻くれてんな〜…』
思ったが言わない。
確実に蹴りが飛んで来る。

「ところでオマエ、好きなヤツとかいんのか。」

唐突すぎる問いだが今、この態度の理由に気付いたと同時に自分の気持ちも再確認してしまった。
正直、掴み所のない彼に対して純粋な興味から始まった事だ。
けれど今この瞬間、『興味』なんかでは済まされない。
捻くれ具合さえ好ましいと思ってしまった。
それ故黙ってなどいられなくて、簡単にするっと口から出た言葉。
とにかく伝えない事には始まらないと。
それは随分遠まわしではあったけれど、汲み取ってもらえればと少々期待。
ゾロ的に、そんないつになく真剣な言葉であったのだが視線を戻したコックはあっさり告げた。
「ナミさんv」
ああそう。
分かってたけどな。
ゾロでなくてもこんな風に思ったろう。
漏れる溜め息。
「…ってなんだよ急に。」
即答してから時間差で見開かれたサンジの蒼に見て取れる疑問の色。
普通は答える前にこう来るもんだ。
思ったがやっぱり言わない。
「いや、気になったから聞いてみただけだ。」
おもろむにタバコを取り出す指先の動きを目で追った。
「ふぅん…」
何故気になるのか、とここは逆に質問していいところだ。
しかしコックはとにかく、、
鈍かった。
何を気にかけた風でもなくタバコに火をつけ静かに煙を吐く。
かと思ったら立ち上がり、シンクに向かって何かを洗い始めた。
らしくもなく遠まわし作戦を実行してみたのだがちっとも通じやしない。
もうやめだやめ!!
作戦変更。
ここはもうストレートに行くしかない。

「…好きだ。」

言った。
言っちまった。
だが背中を向けたまま野菜を刻む丸い頭はぴくりと揺れもしない。
蹴り飛ばすなり罵るなりの反応だろうと思っていたゾロはテーブルに頬杖をついたまま暫し待ってみた。
ら、返ったのは予想していなかったもので
「分かった。」
そんな了承の言葉。
手元は忙しく動いたまま、やっぱり振り返りもしない。
けれど何に対する了承だろうか?
その答えはにっこり笑って振り返った彼によってあっさり与えられた。
「コレだろ?」
いつの間に用意したのか差し出された皿の上には『もろきゅう』。
「テメェ口にはしねぇがよくコレ、好んで食ってるもんな。」
流石一流料理人。
きちんと個々の好みを把握している。
だが今この場面で何の話であろうか。
と、頭上にクエスチョンマークを飛ばした矢先、
「しかしテメェがんなにハッキリ言うなんて珍しい事もあるもんだ。」
いくらでも作ってやるぜ?

照れたように笑う表情に、違うとは言えなくなってしまった。
無言で受け取る事しか出来ず、そんなつもりはなかったのだが『もろきゅう』をポリポリやりながら酒を飲む事に。
ウマいしまぁいいかと思ってしまって、自らにちょっと待った。
だから今はそういう話ではなかったはず。
けれどサンジはそれからすぐに「食ったら皿、出しておけよ」と言い残し、キッチンを出て行ってしまった。
……
第一ラウンド強制終了。
しかし一度決めた事を簡単に諦めるゾロではなかった。

翌日、島に到着した面々は時間を決め目的ごとに散る事に。
今回の船番は考古学者。
実は航海士に
「アンタどうせ寝てるだけでしょ?」
と船番を言い渡されたゾロのソワソワな様子に気付いた彼女が声をかけたのだ。
「剣士さん、もしかして何か気がかりな事でも?」
『誰』が『どう』気がかりなのか、知っていてそんな風に。
「いや…たいした事じゃねぇんだが…」
どうにもハッキリ答えない男ににっこり笑って
「私が代わってあげましょうか?」
ゾロはその言葉に甘える事にすると即、船を降りコックを追った。
何故出掛けた先が分かったかと言うと彼女が教えたのだ。
「コックさんなら降りて右の角を曲がったわよ?多分市場じゃないかしら。」
バレバレもいいところ。
しかし今はそんな事にかまっている場合ではない。
早く追わなければ今日中に顔を合わす事すら難しくなってしまう。
大袈裟な話だがもちろんそんな事、この迷子剣士に限って。
ロビンが親切に船上から指差してくれたおかげでわりと簡単に市場へと辿り着けた。
「おっ、やれば出来るじゃねぇか。」
少々得意になっているようだがよく考えてみて欲しい。
そういうレベルのお話だろうか。
けれど連れのない今、誰もそこんとこツッコめない。
随分都合よろしく「やれば出来る」事となってしまった。
「やった」ところで絶対迷子になるくせに。

剣士は早足で辿り着いた市場の中央を突っ切りつつ、金髪頭を探してみた。
日が高いうちは、あの目立つ黄色が目印になって探しやすい。
ふと目に入った店に
「コックが好きそうだな…」
なんかごちゃごちゃ揃ってる。
立ち寄ろうとして、発見した。
目立つ金髪。
丁度買い物を済ませて出たところのようだがまだ店先の瓶に気を取られている。
「オイ。」
とりあえず、声をかける事にしたゾロは一歩近付いた。
「おっ、クソ剣士じゃねぇか。テメェも市場になんか用事か?」
あるわけがない。
食材に興味など、これっぽっちもないと言うのに。
だが
「まぁな…」
そんな事正直に答えられない。
後を追って来たなんて、なんとなく言いたくなくて。
ここで正直に答えておけばもっと分かりやすく事が運んだのかもしれないが、こんな時に限って妙なプライドが邪魔をした。
いまいち腹を括りきれていないようでなんとも情けない。
大丈夫か未来の大剣豪。
「買い出しか?」
知っていて追ってきたくせに、偶然を装ってみる。
「おう。」
簡単に答えたサンジはまだ店先に並べられた瓶に気を取られていた。
両手にはすでに抱えるほどの食材。
大喰らいの揃うあの船では消費量がハンパではない。
故に毎回買出しに出るコックは必ずと言っていいほど大荷物になる。
ゾロはそこを狙って後を追ったのだった。
荷物持ちという名目がなくとも
「…荷物持ってやる。」
手伝って役に立つ事をアピールする為に。
それにしたってストレートに行くしかなどと思ったわりにこれだ。
遠まわし極まりない。
おまけにものすごくささやかなこの内容ったら。
本当に大丈夫か未来の大剣豪。
「んだよ気持ち悪ぃな。なんか欲しいもんでもあんのか?」
素直に荷物を手渡したコックは巻いた眉をひょいと上げた。
それだけの事。
ただそれだけの仕草。
なのに、それにすらいろんなモノを持ってかれてしまう。
「ああ…あるな。」
ここぞとばかりに口にし、そしてじっとサンジを見た。
「コレだ。」
ここまで言ったら分かるだろうと反応を待つ。
「仕方ねぇなぁ…」
その言葉に一瞬くれんのか?と期待した。
が、待て。
このコックだぞ?
「…何が仕方ねぇんだ。」
一応確認。
するとサンジは自らの背後を指差した。
「ん?さっきからオレが見てた酒、欲しいんだろ?まぁオレも気になってたし…安かったらダース買いしてやる。そのかわりテメェが運べよ?」

やはり甘かった。
何故こうなってしまうのか。
だからこのコックったら鈍いのである。
そりゃもう尋常ではなく。
何をどう伝えたらこのボケたコックに伝わるのか。
ゾロはガックリと肩を落とした。
第二ラウンド終了。

ちょっと考えれば分かる事なのだがこの男も負けず劣らずボケている。
告白の前に『オマエが、』と指定してしまえば簡単なのだがその事にすら気付かない。
結局購入したその酒はもちろんゾロが運んだ。

……

頑張れ未来の大剣豪。





end





カヲリ様からいただきマシたリク「サンジに猛アタックするゾロと、ユルすぎて全く気付かないサンジ」デシた〜

ってごっ、ごめんナサいぃ〜(号泣)
なんか旦那様がイタイ人になってしまいました(汗)
しかもサンちゃんボケすぎ!!
ユルいってゆーか、ボケすぎぃぃ〜(号泣)
でもワタクシ書いててちょっと楽しくなりマシた(笑)←正直。
カヲリ様、ありがとうございマシたvvv


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