Dear life



真剣な面持ちで手元に目線を落としていた男はふと顔を上げた。
「来やがったな…」
繊細な白い指先で眼鏡を押し上げる。
その奥には深い蒼。
左目は長い前髪に隠れていて見えない。
セリフは呆れ気味だが口調はそれに反して優しかった。
仕方がねぇなと溜息を吐きつつ立ち上がる金髪痩身の彼、サンジは森の奥の小さな家に一人で住み薬を調合する「調合師」。
彼の家系には魔女がいたり呪術師がいたりとそっち系の能力に秀でていたらしく、代々それを生業としていた。
この国では結構名の通った家柄だ。
それが何故このような森の奥に?なのだが彼はどうにも人の多いところが得意ではなかった。
職種はいまいちハッキリしない。
彼は一つの事に秀でた父や母、祖父母と違っていろんな事をかじりかじりの器用貧乏であった。
ゆえに、なんと称して良いのか分からず「調合師」と名乗っている。
と言ってもそれすら趣味である料理の片手間にたまに調合するくらいで名乗りを上げるような事なのかすら疑問だ。
それでも彼の調合した薬はやたらと効いた。
遠くの村や街から依頼に来る者も多い。
呆れ気味に「また」と言われた人物もそのうちの一人だ。
もっともその人物には調合の依頼などないのだが。
サンジは再度溜息を吐き、ドアの錠を外した。
「三…二…一…」
カウントが終わると勢いよく開かれるドア。
その先には驚いたように目を見開いた男が立っていた。
「よう!」
タイミングばっちりだな!とニカッと笑うその顔に邪気はまるでないが彼にしてみりゃ「コノヤロウ」。
何故錠を外しておくかというと、何度も壊されたからだ。

「鉄」の錠を。

ありえない怪力である。
ノックをしろ、声をかけろと何度言っても聞きゃあしない。
無理矢理ドアを引くもんで、錠どころかドアも何度か修理した。
しまいにキレてもう来るなと言ってみたがやっぱり聞きゃあしない。
仕方なし、サンジの方で先に気付いて錠を外しておくという予防策を練ったのだ。
日頃から錠を外しておくなんて無用心極まりないしでこれ以外、方法がなかった。
「またテメェか…」
分かってはいるものの、がっくりと肩を落とす。

「なんか食わしてくれ。」
一年ほど前、胸にたすきがけの傷を作った時知人の依頼で薬を調合してやった。
それからしきりに此処へと通っている芝生のような緑色の短髪で、常に腰に剣を装備したロロノア・ゾロという男。
若いわりに有名な剣の使い手らしいが森の奥に住む彼にはただの変なヤツでしかない。
用件はなんだと聞いても別にとしか答えやしない。
こうやって三日と空けずにやって来てはメシを強請る。
本来なら迷惑もいいところだ。
だが『食』という面に関してサンジはどうにもユルく出来ていた。
「ハラが減った」と訴える者を邪険には出来ない。
なんだかんだと文句を垂れつつ結局は絆され今日に至る。
「で?今日は何なんだ。」
どうせ用などありゃしないと知りながらも皿を出しつつお約束で尋ねてみると
「ん〜…」
珍しく煮え切らない様子で眉を寄せる。
「んだよ。何かあんならハッキリ言いやがれ。」
ただでさえ人相悪ぃんだから眉寄せんなと、自らも眉を寄せる。
言われたところの人相の悪い男は更に腕組みをして目を閉じた。
「なんだよ調合の依頼か?だったら遠慮なく言えよ。金は取るがな。」
様子を見つつ、彼の手元は忙しなく動いている。
何か食べさせる為に。
口調に反し、この献身ぷりったらない。
ふと思いついたように顔を上げたゾロはまず、と質問した。
「なぁアンタこうやってオレみてぇに誰にでもメシ食わしてやってんのか。」
サンジは何を今更と振り返った。
「んなわけねぇだろ。オレが食わせてやるヤツはたいてい旅の途中に迷い込んで来たかなんかで遠方の住人だ。テメェみてぇに図々しく通って来るヤツなんていねぇよ。」
手元は動いたまま。
真っ赤に熟れたトマトの皮を剥いている。
「ふぅん…」
ほんのり甘いその香りに鼻をひくつかせ、自分から聞いておきながら興味のなさそうな様子の男はそして唐突に先程から言いあぐねている本題に入った。

「なぁ。」
呼びかける声はなんとなく強い。
「さっきから何なんだ早く言えよ。」
そんなに言いにくい事なのか?
だが促すとあっさり開かれた口。
「惚れ薬作れねぇのか?」
あまりにも意外な言葉が意外な人物から出たもんで、サンジは目を丸くした。
「惚れ薬?作れねぇ事もねぇが…どうすんだよ。」
素朴な疑問。
「使うに決まってんだろが。」
えっ?!
「オマエが?!」
「んだよ悪ィか…」
不貞腐れたように少し下唇を突き出す。
「ふぅん…」
とたん、彼はニヤニヤしながら上目遣いでゾロを見た。
「で、どんなお嬢さんに使うンだよ。」
「んな事テメェに関係ねぇだろ!」
言えるわけがない。

目の前で探るように眼鏡を押し上げる「調合師」その人に使いたいだなんて。

「どうしたら手に入んだか…さっぱり分かんねぇんだ。」
いつの間に出来上がったのか俯き呟く緑の芝生頭の前には湯気の立つ皿。
「そういうコトならまずはお兄さんが相談に乗ってやろうとも。」
サンジはガタンと椅子を引き、ゾロの正面に座った。
あからさまに興味津々だ。
相談なんて口実で、ただ自分が聞きたいだけ。
でもさっきから心臓がイタイのはなんでだろう?
ちょっとしたその引っ掛かりには懐いていた動物を手放すような気分なのだろうと折り合いをつけとりあえず終了。
「まぁまずどんな相手なんだよ。」
言ってみろと妙にエラそうだ。
「…メシがうまい。」
とにかくウマイ。
言いながらもぐもぐやっている。
ついさっき出されたばっかの皿はすでに空だ。
「んだよじゃあその子に食べさしてもらやいいじゃねぇか。なんでわざわざオレんとこ来んだよ。」
丁度メシを食わせたところのサンジにしてみりゃそりゃあとムッともする。
けれどいいタイミングでどこからともなく出された茶をぐいと飲んだゾロはそんな事お構いなし。
「そんで結構マメだな。」
そりゃあ好い事だ。
ってオレの気分は無視か?!
…今更か。
…いちいち気を悪くしても仕方ない気を取り直そう。
「情に厚くて世話焼きで、大人ぶっちゃいるがボケっとしてるトコもあってどっか抜けてる。」
「ふんふん。」
まぁ完璧な人間よりそんくらいのがカワイイだろうよ女の子は。
情に厚かったり世話焼きってのは大事な事だ。
「見事な金髪でやたら色が白ぇ。」
ふぅん。
オレだって見事な金髪だ。
なんて、ヘンな対抗意識を燃やしたところでハッとする。
何考えてんだオレ?!
「ソイツ変わっててよ。」
そんなオレの心中など気にも留めず、ゾロは淡々と話を続けた。
いつになく饒舌だ。
「なんでも有名な家系らしいんだがそのくせ森の奥に一人で住んでんだ。」
「…」
あれっ、なんかどっかで聞いたような…
「本人調合師とかゆってんけどよ、それよりメシ食わすのが好きみてぇだ。」
職種まで一緒か、いやまいったな。
「へー…だったらメシ屋をやりゃあいいのにな。」

「だろ?オレもそう思ってんだがそこんとこどうなんだ?」

覗き込むように聞かれてみて始めて思い当たった。
「…ってそれ、オレじゃねぇか!!」
「んだよ今頃。やっぱ気付いてなかったか…」
今度はゾロがガクリと肩を落とす。
具体的な人物像を口にしないと分からないとは相当だ。
森の奥に一人で〜あたりで気付いてもよさそうなものだがどこまでボケているのか。
流石に不安になった。
「オマエそんなで大丈夫か。」
サンジは口を開けたまままだ固まっている。
「オイ?」
だらりと垂れた腕を掴むとその痩身はようやくビクリと反応した。
「オレ的にはまだ暫くこのままでも良かったんだけどよ…最近噂がたってな。」
ゾロは飲み干した湯飲みを差し出し無言の催促。
「…なんの。」
どこまで厚かましいのかと呆れながらも応じてしまう自分が悲しい。
「森の奥にヘンな眉毛した腕の良い調合師がいて、その上別嬪だってな。」
「はぁ?」
確かにサンジの眉はくるりと巻いている。
だがヘンな眉とかよけいなお世話だ。
で、それオレの事かよ?!
「アンタの事だ。」
やっぱりかなんだそりゃ?
本人そんなコトは露知らず。
何故そんな事になっているのかは分からないが、そのせいか最近妙に男の客が増えたのかと納得。
「オレが何の為にこんな分かりにくいとこに迷いもって通ってたと思ってんだ。」
「メシだろ?」
即答。
話の流れをちょっと考えりゃあ分かる事なのだが、まだ完全には事態を把握出来ていないサンジは当然のごとく答えた。
「それもあるが、オレはアンタに会いに来てんだ。」
「はぁぁ?!」
「さっき『惚れ薬』作れねぇのかって聞いたろうが。」
で、今の会話だ。
そう言えばそうだった。
あまりの衝撃に忘れていたが、この男、先程自分に惚れ薬を作れないかと聞いていたような…
「で?オレに依頼した薬をオレに飲ませようって?」
「おう。」
なんだかまったく悪びれる様子もない。
メシを食わせろと通ってみたり、図々しいったらない。
「なんでオレがンなもん飲まされなきゃなんねんだ。」
あまりなそのセリフにゾロは大きな溜息を吐いた。
今までの会話はじゃあ一体何だったんだ?
「だから、アンタに会う為だけに一日半ほどかけてここまで来てんだって言ってんだろが。」
分かんねぇのか?
サンジは再度口を開けて固まった。
「なんだよ今更。言った事なかったか?」
そんなの初耳だ。
一日半?!
「仕方ねぇだろが。だいたいなんでこんな分かりにくいとこ住んでんだよ。」
確かに森の奥だ。
だが分かりにくいとかそういう問題なのだろうか。
開口一番「なんか食わしてくれ」の理由がよぉく分かった。
ブツブツ所在地について文句を言う男の耳をぎうと引っ張り
「じゃあテメェはその間何も食ってねぇのか?!むやみにメシを抜くな!!!世の中には食いたくても食えねぇヤツが五万といるんだぞ?分かってんのか!!」
激怒。
怒鳴られ今度はゾロが呆然と口を開けた。
「スマン…」
ここはひとつと素直に謝る。
サンジは少しずった眼鏡を押し上げ
「…帰りはどうしてたんだ。」
静かに問いかけた。
「なんか知んねぇが帰りは半日とかかんねぇ。」
て事は、だ。
森さえ抜ければそこまで迷子にならずにすむという事で…
それにしたってなんとも不思議な現象。
つい今発覚したものすごい事実に眩暈を覚えつつ再度耳を引っ張る。
「イテェって!!」
額には青筋。
「そんな迷うんならもう来んな!」
それはそれでもちろんサンジも寂しい。
そこは本音。
それでも『食事を摂らず』なんて言語道断。
サンジ的に我慢ならん。
だがゾロは
「無理だ。」
ハッキリと言い切る。
「…何が無理なんだ。」
尊大なその態度に更に青筋。
「ここに来ないのも、迷わないのもだ。」
しかし更にハッキリ。
「どっちかにしやがれ!!」
いよいよ怒髪天にて頭上に湯気の勢いのサンジをものともせず
「少なくともアンタに会わないなんて絶対無理だ。」
しらっと。
どこまでどこうなのかこの男は。
言われた彼は真っ赤になって口をパクパクやった。
ゾロはまいったかとばかりに得意気にふふんと鼻を鳴らしたかと思うとあっと声をあげる。
「そうか今まで思いつかなかったぜ迷わねぇですむ方法がいっこあった。」
「…んだよソレ。」
サンジは震える口元を右手で覆い、とりあえず聞いてみた。

「オレもここに住みゃいいんだ。」

「はぁ?」
聞いたはいいがまたとんでもない。
言われなくたって分かる、一緒に暮らすという「意味」。
「オマエ正気か?オレは男だぞ。」
「知ってる。」
「どう見たってオレのが年上だし。」
「だから?」
なんだよそんなどうでもいい事ばっか。
なんて、この男にとってそれらは考慮するべき事ではないようで。
「…何言ってんだ本気かよ?!」
いつになく真剣な表情のゾロをなんとなく見ていられなくて、サンジは目を逸らす。
だが長い前髪で隠したその頬は大きな掌で強引に正面へと向けられ固定されてしまった。
そして。
「その眼鏡はなんの為にかけてんだ。」
逃げる事を許さない視線。
縫いとめられ硬直。
「なっ、なんだよ急に…今そんな事関係ねぇだろ。」
動揺を隠し切れず声は僅かに震えてしまう。
情けねぇ〜と心中で叫びつつ、だってこんな目で見られてみろと自らに言い訳まで始める始末。
硬直したまま葛藤中の長い沈黙に焦れたゾロは先を促した。
「いいから答えろ。」
「ええと…目が悪ぃから?」
本当にそうなら普通に答えりゃいい事を、疑問符付きで言ってみる。
「他にも理由あんだろが。」
こんな返答では当たり前だがゾロには全て見透かされていた。
とぼける事を諦め小さく息を吐く。
「なんだ…知ってたのか。」
「ああ。」
「…よけいなもん見ちまうからだよ。ソレの防止。」
それも、森の奥に一人きりで暮らす理由のひとつ。
「じゃあ今それとってちゃんとオレを見ろ。」
やっぱり視線は逸らされる事なく。
「なんで…」
「いいから見ろ。」
サンジはおとなしく眼鏡をはずして強く言う男をじっと見詰めた。
「…」
「分かったか?」
じりじりと脳が焦がされるのは分かる。
逃げられないのも。
「何が。」
「信じたか?」
再度問われ、そこでサンジはとうとうキレた。
「んなもんかけてなくたってテメェの気は強すぎんだ!!はずさなくたってとっくにテメェの本気は分かってんだよっっ!!知ってるくせにいちいち言わせんなっ!」
怒鳴り散らして自らのセリフに恥ずかしくなったのか、彼の顔は真っ赤だ。
「じゃあここに住んで問題ねぇな。」
片やけろりと言い放つ。
サンジは、『毎日ウマそうに自分の作ったメシを食う人間が傍にいる』という事。
その誘惑に負けてしまった。
「クソッ!オレの負けだ負け!!」
ヤケになって叫びつつ、そんな四六時中傍にいたら自分はどうなってしまうのか。
言い様のない不安に背中を伝う汗。
もしや時間の問題?!
「契約成立な。」

にやっと笑った男はすいと顔を寄せ、チュッと音を立てて唇に触れるとすぐ離れた。



end





うっ…パラレル難しかったデス…
てかパラレル??? …(滝汗)
こんな設定の上こりゃまたヘタれなこの内容デスが許してやって下さい(涙)
でも本人楽しく書かせていただきマシたよ〜ふふ。←ロビンちゃん風。
って事でめいれん様からいただきマシたリク、「パラレル」で「ゾロがサンジ溺愛」デシたv
めいれん様、ありがとうございマスvvv



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